五十三話「おれのきぐ」
「しかし、あの件にアイツらが絡んでたとは……」
あのバカ勇者の替え玉をやらされてた変装士の少年も謀略の魔王とやらのの間接的な被害者であるわけで。
「今頃どうしてるかな……無事だといいけど」
優先してなすべきことがあったとは言え、思い出すと後ろめたさが心に滲む。替え玉とはいえバカ勇者の関係者となると、魔族の話にあったの四天王の一人が何らかの目的でちょっかいをかけていてもおかしくなく、他社に変身できる能力の持ち主など謀略で敵をひっかきまわす手段を好む者なら手駒の一つとして確保しておきたいと思ったって不思議はない。
「敵がなまじ有能だと、不安になるよな。もう先んじて手を打たれてるんじゃないかって」
ロープを解いていた手を止めると、俺はため息をついて天井を仰ぐ。
「まぁ、天井見たって答えが書いてあるわけじゃないけどさ……マイ、どう思う?」
「その、もうちょっとあのまま縛っててくれても良かったかな……って」
「えーと……」
俺は相談する相手をやっぱり間違えたんだろうか。
「とりあえず、間に合ったのはよかったと思うべきだよなぁ」
有益な情報を得た後、魔族が転移されるのに続く形で空間魔術師の女性に空き家の前まで送って貰った俺はすぐさまマイの居る部屋に向かい、何とかこの少女が縛られているのを他者に目撃されずロープを解きかけるところまで成功していた。
「ロープ解いていても話はできるからってこれまでのいきさつを話して意見を求めたのに、な・ん・で、解いてるロープの方にコメントするの?!」
心境的には容赦なく問い詰めたいところだが、相手は怪我が治ったばかりの半怪我人だし。特殊な訓練を積んでいるというか新しい扉を開いちゃった系の人なので、怒っても叱っても、私の業界ではご褒美ですにされかねないというか、罰が罰にならない気がしてならない。
「下手すると、今より酷いことになるかもしれないもんなぁ」
いや、前世の知識を得てしまった時点でもう酷くはなっているのだけれど。
「ホント、どうしてこうなった……」
俺とマイの前世はごく普通の幼馴染だった筈なのに。
「その、ね、智くんとネットで遊んでいられると体調が辛くても嬉しくて、それが転じて、辛いのとか苦しいのが好」
「答えてくれなくていいから! と言うか、虫が良いのは解かってるけど、聞きたくなかった!」
前世の俺の認識の甘さが幼馴染に無茶をさせていたということを再認識させられたということもあるが、それが彼女の変態性の起因だったなんて明かされて、俺はどうすればいいというのか。俺が疑問を口にしたから答えたというだけなのだろうけれど、そのちょっと天然入ってる反応が前世の彼女と重なり。
「懐かしさを感じてしまう俺も、大概だよなぁ」
そして、マイの前世が俺の前世の幼馴染なのだと確信する。
「けど――」
俺はそんなことなどあるわけはないとは思っていたものの、もし、幼馴染に、前世の幼馴染に再会が叶うなら、謝りたいと思っていた。償いたいと思っていた。
「もし」
今の彼女にそれを打ち明けて、償わせてくれと言ったら。
「じゃあ、もっと縛って」
とか。
「毎日縛ってもらってもいい?」
とか、言われないだろうか。何かそんな感じで変態的なおねだりをされるのが、一番怖い。別に俺にそっちのケがあるわけではないが、負い目のある俺は抗えないと思うから。
それでいて、マイの前世が俺の幼馴染だと知った今、逃げられもしないから。
「辛い思いをさせた埋め合わせは、するよ。いや、辛い思いをさせたから、それ以外の何かで埋め合わせたいんだけど……」
流れを変えるべく、言葉を紡ぐ。
「縛られるのが好きなら、ここからは仲間とかそう言う絆で、繋がりで縛ってあげるからさ、その……」
迷う。何というべきか、どう切り出すべきか。
「続き、っていうとアレだけど、冒険しない? あのゲームと比べると、まぁ、色々とアレだけど」
魔王の弱点が尻だったり、魔王がモフモフ好き過ぎてホムンクルス作っちゃう世界ではあるけれど。
「俺は、あ」
「うん。いいよ。今度こそ着させてね、ウェディングドレス」
俺の言葉を遮り、彼女は微笑む。
「嗚呼」
ようやく、あの日の彼女に逢えた。彼女を取り戻せた気がする。
「ただ――」
下半身が縛られたままなのは見なかったことにしよう、いろいろ台無しだから。
何故だろう、『完』とかついて終わってしまいそうな流れに。
一応、まだ続きますので、ご安心を?
というわけで、せーの
「「俺達の冒険はこれからだッ!」」
いや、やってみたかったんです、すみません。




