五十話「連鎖は得意なのです」
「魔族の肉体構造はある程度把握してる」
たとえそれが何処かの残念な四天王の少女由来でも、こうして活用の機会が来たなら、あの時の事はもう良しとする。
「罠の新しい活用方法を思いついた」
例えそれがどこかの変態さんを縛っている時に着想を得たモノでも、黙っていればわからない。
「く、たかだかロープ如き」
腕に絡み付いたロープがもがく魔族の腕力で悲鳴をあげ出すが、問題ない。
「引きちぎる切断される、どっちにしても数秒動きが止まればそれで良かったから」
「な」
驚きの声を上げた魔族の頭上に影が差す。召喚罠第三弾は落石を落とすモノ。
「あああ」
悲鳴を落下する岩の音が途中で押し潰した。
「山地っていいよね? 落とす岩ならいっぱいだ」
作動させる罠が落とす岩は見回せば山肌にゴロゴロしている。
「さてと、第四弾、第五弾、続けていくよ」
魔族なら、簡単には死なない。仲間の固有技能で死にかけた四天王は居た気もするが、あれは希有な例外だろう、だから。
「うぐ、きさ、がっ、ごべっ」
石の下から這い出てきた魔族が結んだ草に足を取られて転倒した直後、真下からせり上がってきた丸太に顎をかち上げられても、次の罠を召喚する準備は怠っていない。
「第六弾、第七弾、行けぇッ!」
「ぎっ、やげべッ」
何だかちょっと楽しくなってきたけど、きっとこれはあれだろう。パズルゲームで連鎖が決まったり、格闘ゲームでコンボ攻撃が全て命中した時に感じる高揚感というか達成感の様なモノ。
「罠を召喚する形を取るから、設置の手間は要らず、位置調整も召還時で事足りる。発動寸前の罠を召喚すれば罠を発動させるスイッチなんかを相手に踏ませたりする必要もない」
上級職というのは伊達じゃないのだ。最も罠は召喚用にストックしていた分しか喚べず、罠の威力も子火力系上級職と比べると低く、最強にはほど遠いが、一度罠にはめてしまえば、相手は詰みだ。打開手段を有しているか、罠が尽きるまで耐えきれるだけの力を有していなければ。
「ああ、ちなみに俺の罠ストック数は最大値が五百だから」
この数字、規模の大きな罠なら一つで複数個扱いだが、逆にショボい罠だと複数個を一セット扱いにして一個枠で数個ストック出来る。本来数個セットで一つの罠として作動する罠があるからだろうけれど。
「単発に絞れば矢とか槍は十や二十じゃ尽きないからね」
たぶん目の前の魔族の心を折るには充分だと思う。思うところはあるけれど、貴重な情報源なのだ。兵法書にも心を折るのが上策とかあった気がするし。
「どっちにしろ戦いは避けて通れそうにないし」
和己さんこと魔王ゼグフーガとあのウサギ勇者の和解を邪魔するつもりの勢力が暗躍するのを許す気なんてサラサラ無い。
「と言うか、モギズレ何とかって魔王もこんなところで暗躍がバレるとは思っても居なかっただろうけど」
村長の話を聞いた限りではこの魔族、村長を含む暗黒神崇拝者たちを実行犯にし、自分の手を汚すことも正体をさらすことも考えて居なかったと思う。村長たちがしくじり、口封じに失敗するという失態を犯したからこそ、何らかの形で挽回をする必要があり。相手の立場に立って考え、最初に思いついたのが、嫌な置き土産を残してゆくこと。
「だけど、すでに一回失敗してる身としては置き土産も片付けられるんじゃないかって不安がある」
充分離れて様子を窺えば、案の定調査に向かおうと動き出した俺たちが居た。
「しかも調査のメンバーが本来の標的を含む少人数なら『今度こそ』と襲撃してきてもおかしくない。それが罠だとは気づかなかったか、気づいても襲撃せざるを得なかったかは別ってことにしておいてあげるけどね」
この時、俺たち三人で魔族を抑え込んでおけるか不安があったが、騎乗者の少女に俺を止めるそぶりはなく、思いなおすように促すこともなかった。
「もちろんそれで油断する気はなかったよ」
目の前の魔族は人間をさんざん侮っていたものの、村ではそれで痛い目を見ている。
「慢心を反省して何か手を打ってくるんじゃって、結構警戒したんだよ?」
気配に気づいて罠の準備をしつつも様子を見たり。
「肩書っぽいモノ名乗ったとは聞いてないとは言え、魔王の命で動いてるなら凄腕でもおかしくないし。結果的にあっさり矢が刺さってその線はないと判明したけど」
最初だけなら擬態も考えられたが。
「ぎゃあっ、ぐ、ぎえっ」
魔族は未だ俺の罠の連鎖から抜け出せていない。
「降参するなら早めに言ってね? 罠の節約になるし」
一応降伏勧告的なモノをしてから、俺はさらなる罠を喚び出す準備に移るのだった。




