四話「空間魔術師と俺たちの事情」
今回は短め。過去のお話です
「ルーデンの街まで? 駄目ね、この護衛依頼は」
赤毛の少女が張り紙を見て残念そうな顔をした。ルーデンは以前俺たちパーティーの滞在していた街であり、二度と足を踏み入れられなくなった街でもある。
「ルーデンでござるか」
「あぁ、ルーデンか」
俺たちの顔まで微妙になったのは言うまでもない。そう、あの街は俺たちが追放ではなく別れるメンバーのアフターケアまでしていた頃に滞在していた街だったのだから。
「最後に活動したのは、確か――」
記憶は過去にさかのぼる。
「ごめんね、俺たちも目的があってさ」
「そんな、新しいパーティーまでお世話していただいて……あたしこそ、何のお役にも立てず、申し訳ありませんでした」
恐縮する俺にペコペコ頭を下げる女性。彼女は空間魔術師であり、つい先ほどまで俺たちのパーティーメンバーだった女性である。
「その、ユウキさんは大丈夫ですか?」
「あー、まぁ、アイツは夢破れて凹んでるだけだから、気にしないで」
ユウキ、つまりござる口調のトリッパーがこのパーティーに居る理由は元の世界に戻る手がかり探しでもあった。ならば、空間魔術師なんていかにも異世界との移動が出来そうですよと言った感じの職業である彼女を見かけたとき、どういう反応を見せるか、きっと語るまでもないだろう。と言うか、語りたくない。
「どぅふふ、ようやくあのアニメの続きが見れるでござそうろう」
だとか。
「夢にまで見た一穂ちゃんとのトゥルーエンドが」
どうのとか。ちなみに一穂ちゃんとやらは恋愛ゲームのヒロインだそうで、気になって尋ねた俺は延々語られて質問した過去の自分を呪った。
「還るばしょ、か」
それは明確に存在する転生者とトリッパーの差だろう。どこか複雑そうな赤毛の少女の気持ちを俺は半分だけなら理解できた。
「この身体であっちに行くわけにはいかないしなぁ」
こちらにも家族が居て、ガワの違う俺たちは生前の家族とはあちらから見れば赤の他人だ。ついでに言うなら戸籍もないからあっちに渡れても色々面倒なことになるだろう。短い間の滞在なら問題ないかもしれないが、異世界との行き来がそうそうホイホイできるとも思えない。
「お二方、それよりもでござるな」
「ん? ……げっ」
復活したらしいユウキがかけてきた声で俺は現実に引き戻され、窓の外に見えた光景に思わず声を漏らす。人、人、人。鎧やローブをまとった人々がうろうろしているのだ。
「ねぇ、あれって……」
「パーティー加入希望者でござろうな。ウチのパーティーに滞在した者はだいたい第一線で活躍している凄腕になってござるし。アフターケアまでしているからか、評判もいいでござるよ」
「勘弁してくれ」
どこか遠くを見るユウキの発言に俺は手のひらで顔の半分を覆った。
「ねぇ、もうアフターケアはやめない? 次の街から別れるのも『ざまぁ』されないくらいに追い出す形で」
「「異議なし」」
赤毛の少女の言葉に俺たちは口をそろえて同意し、そして今に至る。
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
だから俺は今日も言うのだ。おなじみとなったセリフを。