表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/153

四十九話「やましいことなんてなかった、いいね?」

「はぁ」


 一つの嘆息と。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 一つの少し乱い呼吸。


「どっちも文字だと『はぁ』で表記されて数が違うだけだというのに」


 なんて現実逃避に呟いても目の前の光景の犯罪臭は消えてくれない。


「もともと変態だったところに『前世の知識として変態方面の知識が補完された』結果、際どい縛り方のリクエストが来るとか」


 想定外だった。


「前世の知識ってもっとこう『NAISEI』とかそっち方面に使うのがテンプレでお約束じゃないの?」


 問いただしたかったが、怖い答えが返ってきたらどうしようという不安から聞くことはできず。


「うん」


 俺は縛って喜ぶ変態さんではないので、それは作業だった。作業だったと思う。作業だったと思いたい。相手が前世の幼馴染だと思うと、胸中の複雑さは増す。


「恋愛とか男性と女性の関係ってああいうモノだっけ……」


 前世では彼女のことを引きずって結局恋人を持てなかった俺だけど、それでも何かが違うのではないかと思う頃には、クレインさん達との打ち合わせも終えて、空き家の玄関へと続く廊下、その天井を見つめながらつぶやいていた。縛られて喜ぶ変態さんは、今も毛布の上で横たわっているだろう。


「ふぅ」


 ため息を漏らし嘆息にもバリエーションがあるんだなぁとどうでもいいことを発見しながら戸口を抜けて、前方の空、小さくなってゆくクレインさん達を見送る。


「『俺が出向くより、先行したクレインさん達のところに転移で送って貰った方が早い』かぁ」


 この時、俺が視認できていれば空間魔術師の女性の負担が軽くなる為、俺は外に出てきたのだが。


「気になるよね、やっぱり」


 縛った少女が見つからないか的な意味の気になるもあるが、縛られた少女が前世の幼馴染だったと判明して間もなく、あまり前世のことについて話せなかったというのもある。つい、彼女の居るであろう方を振り返ってしまい。


「いけない、いけない」


 今は調査の方に思考を割かないとと頭を振る。


「私事はあとあと」


 調査で何もなければ次の方針も立てられるし、かの変態さんと話す余裕だって出来るのだから。


「とりあえず、罠の補充でもしておこう」


 別に現実逃避と言う訳じゃない。


「まぁ、ここで用意できる罠何てたかが知れてるけど」


 しゃがみ込み、程よい長さの草同士を結び、足を引っかける輪っかにする。初歩的で原始的な罠だが材料には困らず、製作時間も短くて済む。


「石壁は鉱山の町で石材を買うか渓谷で削りだすかってとこかな」


 武器が仕込んであるタイプも町の武器屋で購入したモノを材料に作るか、ダンジョンや遺跡などから失敬してくる必要があり。


「射出機構自体は壊れてなければ召喚した罠を回収してのリサイクルでいいけど、今回の壁はとっさの事だったからなぁ。動作部分が壊れてても仕方ないとは言え構造そっくりコピーして作るにしても部品の用意が……あ」


 罠の補充のため近日ダンジョンに潜る必要がありそうだと考えつついくつ目かの罠を作ったところでクレインさん達からの連絡があり。


「よし」


 立ち上がって両手で大きな丸を作ると一瞬で周囲の光景が変化する。


「ここは……ああ、クレインさん達が向かってた方向にあった山か」


 首を巡らせると周囲を一望でき、視界に入った村の低さと位置で逆説的に現在地の見当をつける。


「はい、おそらく後一度の転移で渓谷に至れるかと思います」

「まぁ、あまり移動に時間かけたくなかったし、ありがたいよ」


 俺の言葉を肯定してくれた空間魔術師の女性に感謝を込めて軽く頭を下げる。本来、魔法の効果を減少させるパーティーメンバーが居る俺たちにとっては恩恵も少ないが、普通の冒険者たちにとって転移の魔法を持つこの人はのどから手が出てくるほど欲しい人材だったに違いない。


「いえ、お別れした時は何のお力にもなれませんでしたし」


 そうか、この人はあの時の恩を返す時と思ってくれているのか。


「ありがとう。じゃあさ、ずうずうしいけどもう一つお願い、いいかな? ちょっと援軍を連れてきてもらえる? 念のために」


 感謝の言葉を口にした直後、若干申し訳なく思いつつリクエストすると、俺は罠を召喚した。


「ぎゃあっ」


 罠が打ち出した矢の飛び込んだ岩陰から悲鳴が上がり。


「まぁ、俺を狙ってるみたいだったから少人数で動いたらひょっとするかもってのはあったけどさ、ちょっと簡単に引っかかりすぎじゃないの?」


 うれしい誤算ではある、たまったうっぷんの持っていき場所が自分から来てくれたと思えば。


「おのれ、人間如」

「第二弾ッ」


 矢の刺さったまま現れた魔族が激昂しつつ続けようとする言葉を遮り、更に罠を召喚する。八つ当たりと言うにはその魔族は影で俺たちに色々やらかしてくれた、だからこれはその意趣返し。


「人間如きの怒り、たっぷり味わってもらおうかな、うん」


 遠慮する気は欠片もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=368208893&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ