四十八話「説明も必要かもしれないけどさ」
設定を失念していた為、前話の末尾二行ほど修正しております、ご注意下さい。
「これから彼女とどう接すればいいか」
それを考えていた。もちろん技能の説明もちゃんと聞くつもりだった。
「あっ」
だが、何かに気づいた様にぽかんとした顔をしたかと思いきや、固有技能ってものを手に入れたのとだけ繰り返して彼女の話は終わったのだ。
「そう。それでこの後だけど――」
その固有技能の効果はどんなモノと普通なら更に突っ込んで聞くモノだろう。だが、彼女の態度で一つ察した俺は深くは聞かず、話題を変えた。固有技能は俺も所持しているが、その内容を対象に知られると効果を発揮しなくなると言う制約がある。説明を突然止めたのが、俺の固有技能と同じ様な制約がくっついているからだとすれば、突っ込んで聞く訳にはいかない。
「マイが何かを強く訴えたり希望した時はそれに沿うてやればいい」
ただ、それだけのことだ。問題は、技能と関係ないこちらとしても叶えるのに抵抗のある様なことをお願いしてきそうな人物であるってことだけれど。
「逆説的にそっちは理由の説明が出来るはずだから」
一応の判別はつく。結果としてMい扱いを求める理由とかを知ることになって精神面で消耗するハメになるかもしれないが。
「村長をそそのかした魔族が他にも何か置きみやげ的なモノを残してるんじゃないかって懸念があってさ、念のために渓谷を調べに行こうと思うんだけど」
その辺をひっくるめて今後どう接するかは課題だよねと胸中で思いつつ、少女が意識を取り戻すまでの経緯を短く纏めて説明した俺はこれから調査に赴こうと考えていることを彼女に明かした。
「智く、ヘイル様。その調査、私は――」
「うん。聞いてくると思った。怪我人同行させると思うの?」
ある意味想定内の問いへ、俺は逆に問い。
「っ」
「とは言え、普通に置いて行くと隠れてついてきそうでアレだし……」
肩をすくめると、取りだしたのは何の変哲もないロープ。
「縛って……いただけるんですね?」
嬉しそうに尋ねてこられて、俺は自分に問う。
「本当にこれで良かったのか」
と。何というか、効果的であろうとは思っていたのだけれど、相手は前世の幼馴染みだ。Mに変質したのは、俺が彼女をパーティーから追放した時だったと思うので前世もそのケがあった訳ではないと思うが。
「それで満足してくれるなら、今回はやむを得ない……かな?」
避けよう避けようと思っていた少女を縛る図式が一度ならず二度までも。
「どこで間違えたのかな」
こんな筈じゃないと漏らしたくなる口を噤み、周囲の気配を探る。とりあえず近くに人は居ないらしい。下着姿の少女を前にロープを持ってるシーンを目撃されることはなさそうだった。
「とりあえず、先に用を足しておいてくれる? それから服も着て」
縛ってしまえば調査から戻ってくるまで俺にはロープの解きようもなく、誰かに解いて貰えばその人物に俺が彼女を縛ったことが知られてしまう。だったら、俺に出来るのは長時間縛られていてもなるべく大丈夫な状況を作り上げ、急いで出かけ、さっさと調査を済ませてもどってくる事だけだった。
「本当は、もっと色々話したいこととかあるんだけど――」
間違えては駄目だと心の中で自分が言う。安全確認を怠って彼女と前世の事で話をした結果、取り返しのつかない事態になれば、きっと後悔する。漸く出逢えた幼馴染み、後ろ髪を引かれる思いではあっても、そも、犀は投げてしまったのだし。
「わ、わかりました」
花の咲く様な笑顔で応じた少女は脱ぎ捨てた服を着始め。今更の様な気もするけれど、俺は着るのを見ない様に背を向けていた。彼女が用を足しに行って戻ってきたら、ロープで縛って、空間魔術債の女性とクレインさんの所へ行き、調査の打ち合わせをしたら出発だ。
「うん、下手なことは考えない方が良いかな」
騎乗者の少女が着終わるのを待ちつつ、ポツリと漏らす。戻ってきたら今度こそ前世の話をとも思ったものの、それを口に出してしまえば死亡フラグ以外の何ものでもない。
「お、お待たせしました」
服も着終わり、一度お花摘みに行って戻って来た騎乗者の少女の顔は期待に輝いており。
「あー、うん」
応じる俺はどんな顔をして良いかもわからず、とりあえずロープを持って少女へと歩み寄った。




