四十七話「向き合わなければいけないことへ」
「とりあえず、村人は捕縛してきたよ」
無限ループを恐れたとか屈したとかではない。罠に精通した上級職の俺がロープの扱いでも敵の捕縛にも優れていたのだから仕方ないと思う。
「マイは?」
お疲れさまとかねぎらわれつつ、尋ねたのは騎乗者の少女の事。
「あの子だったら、ついさっき意識を取り戻したみたいですよー?」
答えつつも腕の中からウサギ女勇者を手放さない狂戦士は何というか本当にブレない。
「魔王と勇者の和解、期待してるし、及ばずながらわたしも力になるですよー」
先々代魔王のモフモフ好きに親近感を抱き、争いの原因を作った謀略の魔王の所業に憤ったこの人がそんな風に協力を申し出たのは、ある意味で必然だった。
「あのモフモフへの思いの強さ……先々代の時代であれば、人間の身でありながら四天王の一角を任されていても不思議はない」
とか残念な四天王の少女にも評されていたし、好みのタイプを聞かれて獣人と即答する猛者でもある。
「んー、子供ができないというのは避けたいので、お付き合いするなら全身モフモフではなくて尻尾とかがモフモフな人を選ぶと思うですよ?」
女性陣との雑談中、好みのタイプを聞かれそんな風にどことなく複雑そうな表情で答えていた辺りからして、ある程度の妥協はできる人でもあるとは思うのだが。
「って、今はそんなこと考察してる場合じゃないや」
少女の意識が戻ったというなら話さなければいけないこと、聞かないといけないことがある。目が覚めた時に俺が居ないと知れば、外に飛び出して行きかねない気もするし。
「ありがとう。それじゃ、様子を見てくる」
礼だけはちゃんと言って俺は少女が寝かされていると聞いた部屋に向かい。
「入、っ」
入るよと一声かけつつノックしようとして思いとどまったのは、目の前の扉が一度壊れたのを覚えていたからだった。
「マイ、入るよ」
「ヘイル様? は、はい」
だからノックはせず、断りを入れると待つ必要はほぼ皆無。
「ご無事だったのですね」
扉に手をかけ開くまでの間に安堵した様子の少女の声が内からし、乱れた着衣でも整えているのか衣擦れの音もして。
「うん、おか――」
扉を開け切った俺が見たのは、服を脱ぎ棄て下着だけの姿で上半身を起こした少女の姿。
「え」
直意を整えているのではなく、どうやらさっきの音は服を脱ぐときの音だったらしい。
「すみません、『全裸で正座待機』はちょっと間に合わなくて」
「えーと」
本当に申し訳なさそうな顔で謝罪の言葉を口にした少女を前に俺は迷った。ツッコむべきか、回れ右をして帰るべきか、色々問いただすべきか。
「と言うか、『全裸で正座待機』って」
結局俺が選んだのはツッコミと問いただすのの折衷案であり。
「前世、智くんと一緒に遊んだネットゲームで色々知りました」
「まぁ、こっちにそういう文化は『お仲間』が持ち込んでなきゃあり得ないから概ねそんな所だろうと――って」
キリッと効果音でもついていそうな良い笑顔で答えた少女の言葉に納得しかけ、気づく。聞き逃しちゃいけない言葉が色々と含まれていることに。
「前世って、ネットゲームって……」
「はい。ここで『智くんのギルドの副リーダーのガチムチ系モンクです』ってボケたい誘惑にちょっとかられましたけど、智くんの恋人だった――に間違いありません」
「っ」
にこやかに、嬉しそうに答えられて、俺は自制できず少女に駆け寄るとその身体を抱きしめ。
「ごめん……気づかなくて、ごめん」
「うぇ、あ、そ、その、謝られると、わた、私の方こそごめんなさい」
しばらくはお互いに謝っていた。
「……これでは、話が進みませんね」
こうなりそうだったから少しお道化てみたのですけどと漏らしつつ、少女は抱きしめられたまま耳元で何から話しましょうかと続ける。
「私に前世の記憶が戻ったのは、少し前の事です。それでまだこの子と私の部分がちょっと一つにまとまらなくてキャラがブレてる感じなのですけど、その辺り私たちの努力でどうにかするにもちょっと時間が必要そうだから我慢してもらえると嬉しいな」
「『嬉しいな』って唐突に割と重要なことカミングアウトされたんだけど」
「確かに重要かもしれないけど、今すぐにどうこう出来ないから」
話を続けるねと前世の幼馴染の方の意識がことわりを入れて説明を続ける。
「記憶が戻っての混乱もあったけど、私たちは記憶が戻ったことで固有技能ってものを手に入れて」
「固有技能?!」
「うん。ただ――」
そして彼女の説明は技能のモノへと移るかと思われた。




