四十三話裏「そのころ(村長視点)」
「仕損じたか。我らと同じ神を崇めようともしょせんは人間」
むしろ期待しすぎたことは我が不明と言い捨てる魔族に、表向き申し訳なさそうな顔をしたままぎりと奥歯をかみしめる。
「そも、弾圧に耐え切れず辺鄙な村まで逃げるような腰抜けの末裔ではな。我らが主、謀略の魔王モギズレヴド様が我に授けよと命じられた力を与えて人間の言うSランク相当とはいえ冒険者一人を殺せぬ体たらく」
「っ」
私は拳を握りしめたまま思い出す、あの日のことを。
「勇者がこの村に近い、鉱山の町に現れた」
その魔族は私たちが暗黒神に祈りをささげる礼拝堂に突如現れて、言った。ただし、その勇者が敵と見なすのは、魔王ゼグフーガだとも。
「モギズレヴド様のお力で踊り、殺し合う創造物に背かれた魔王の三代目と創造主に牙向くウサギ共の勇者。実に滑稽な者達ではあるが、貴様たちには関係のないことではあるな。だが、先日鉱山の町の坑道に突然魔物を発生させたことについても貴様たちの仕業とこの勇者が見抜いたら?」
「それはまさか――」
「逸るな、今のところ勇者が貴様たちの仕業と気づいた様子はない。だが念には念を入れてしかるべきではないか?」
首を傾げた魔族の言葉に身を乗り出そうとした私を制し、魔族は提案する。この村の近くで魔物を出現させ、討伐を依頼してはどうかと。
「依頼し、勇者によって魔物から救われた村であれば疑いも向けられまい」
「な、なるほど」
魔族のいうことに一理あると思った私は村長権限で鉱山の町まで人をやり、依頼を出した。
「にゅい」
やって来たのは人語を話さず筆談で応じる一風変わった勇者だったが、真相には気づかず、私たちの用意した魔物を打倒し、私たちは表向きそれに感謝する。それですべてがうまく行くはずだった、だが。
「看過しえぬ存在がこの地に近づきつつある。奴の名はヘイル、ウサギ共の勇者と組んだことがあり、魔王ゼグフーガとも接触したSランクを抱く冒険者パーティーの要である男」
「相容れぬ二つの陣営と接触ですか、ですがそれが私共とどういう関係があるのですかな?」
魔族は私たちに主の命だと力を授けた。だが、私たちからすればゼグフーガと言う魔王は無関係だ。対立する勇者とて疑いを逃れるため見せかけの依頼を頼んだだけの関係だ。
「まぁ、そうであろうな。貴様たちには無関係に聞こえよう。その男がここにやってくる理由も勇者を追いかけてと言う話らしいからな。だが、このヘイルと言う男は人脈が広く、我らと同じ暗黒神を崇める者とまで交流があるのだ」
「なっ」
「貴様たちの『計画』がそのツテから漏れているとしたら?」
驚く私に魔族は問うた、放置していても問題ないのかと。
「で、ではただちに」
「逸るな。そこで一つ考えがある。この国ではふざけたことに暗黒神様を崇めることを禁じているだろう、となれば『暗黒神を崇める者から貴様たちの計画を聞いた』などとは人に話せまい。貴様たちの秘密を知るのは少数であろうし、ここには『魔族』も居る。仮にヘイルと言う男が仲間に貴様たちのことを話していたとしても、その男が還らず、ゼグフーガの僕を名乗る魔族が残る者どもを襲撃したとしたなら?」
「っ」
言葉を失う私を前に魔族は言ったひっかきまわすには充分だと。
「だが、それもすべてはヘイルと言う男を始末できたらの話だ」
過去の記憶から戻って来た私へゴミでも見るような目を向けながら魔族は爪を伸ばす。
「こうなってはもやはやむを得ん。貴様を殺してゼグフーガの手の者の仕業に見せかけるとしよう。あの男と勇者の双方が残っている時点で貴様らの計画などもはやどうにもなら」
「村長ぉ」
伸びた爪を誇示するように魔族が歩み寄る最中のことだった。
「「ボォオ゛オォォオッ!」」
「「な」」
突然出現した翼のある異形達が魔族に襲いかかったのは。私と魔族両者の口から出た驚きの声は重なり。
「村長、お逃げください! ここはこいつらと俺で」
魔族の向こうで叫んだのは村の者だった。
「貴様ぁぁ、人間の分際でぇぇぇ!」
「分際で結構、切り捨てられる側にも意」
魔族に吠えた村の者の言葉を爆音がかき消す。異形達を自爆させたのだろう。自分の言葉すら途中だったのはおそらく魔族の虚を突くため。
「すまない」
すさまじい腕力と翼による飛行能力、そして自爆能力を持つ異形達は素晴らしい戦力ではあるが、大きな欠点も抱えている。呼び出した術者と命を共有し呼び出したすべてを倒されるか自爆させてしまった場合、術者は命を失うのだ。私を助けようとした村の者はもうおそらく生きていまい。
「ならば、私も」
一矢報いねば死んでも死にきれない。隠し部屋に召喚陣を仕込んでおいてよかった。
「ボォオ゛オォォオッ!」
「私を抱えて勇者の元へ」
魔族め。せめてお前も道連れだ。命じられた異形は私を抱えると、窓を突き破った。
もうちょっと引っ張ってから明かそうか通っていた裏舞台。
主人公を狙ったのは勇者と魔王を和解させまいとする別勢力の思惑も絡んでいたようです。
さて、村長は無事勇者の元までたどり着けるのか。
追記:活動報告にて騎乗者の少女のの名前募集始めました。〆切は今月末です




