三話裏「死霊術師エリザと召喚師と悪魔使い」
「リサリアのコーヴァクンもまぢ、小悪魔みたいにへろへろでー、ほんとヤバかったしー、エリエリも大変だったって言ってたでしょ?」
赤銅色の肌をした筋骨隆々の悪魔をちらりと見てから、リサリアさんはわたしにキツかったよねあの人達と一緒はさーと同意を求めた。
「否定はしません」
確かにあの方たちのパーティーに居た頃は全力を注いで作成したアンデッドも下級アンデッド程度の力を持てばよい方で、複数のアンデッドを同時に作成しようとすれば、作成に失敗したり自壊する子が後を絶たなかった。
「あれ、アイアイの固有技能ってのだったんだってさー。敵味方関係なく魔物弱体化させちゃうってヤバすぎー」
「そのおかげで我々の実力は格段に上がったわけだがな」
ボヤくリサリアさんの言葉に腕を組んだまま口を開いたのは、召喚師のレイミルさんだ。わたしたちには共通点があった、とある三人組のSランクパーティーに拾われ、追放された経歴の持ち主であるということ。そして追放された後で、いつの間にか増していた実力に驚かされた者達でもある。
「まーね。そーするとー、クラクラの話ってやっぱまぢなのかなー?」
「クライヴ殿の言う『世界を揺るがしかねない危機が、訪れる』か? ここのところ人族に敵対的な魔王が大きな動きを見せたという話はこのあたりでは聞かんが、それを嵐の前の静けさと取るなら――壁ッ!」
頷くリサリアさんの言に考え込む様子を見せたレイミルさんが召喚術を行使したのは突然の事。召喚の為の方陣から石でできた壁がせりあがるとわたし達目掛けて放たれたのであろう数本の矢をはじき散らす。
「この矢は、ゴブリンの……」
「なーんだ、ゴブアチャかー。コーヴァクン殲滅よろー」
落ちた矢を見てわたしが呟くと、リサリアさんつまらなそうに傍らの悪魔に指示を出し。赤銅色の人型がすさまじい速さで前方にあった茂みに飛び込んでゆくと、ゴブリンのものらしい断末魔が上がる。
「ふむ、襲撃の頻度が増してきたな。集落が近いとみてよいか」
「けどー、戦力の逐次投入とかゴブリンまぢ無能ー。エリエリが居るから死んだゴブリンはこっちの戦力だしー」
ちらりとこちらを見るリサリアさんに無言でうなずくと、わたしは拳を血で汚しながら茂みから出てきた悪魔の方に歩き出し、すれ違う。私たちが受けた依頼はゴブリンの集落の壊滅。こうして襲撃してきたゴブリンを返り討ちにしてわたしがアンデッド化させ、周囲に配置することでゴブリンが襲撃してくる方角を絞り、そちらにはレイミルさんの召喚した小さな魔物が隠行し、斥候の役目を果たしている。先ほど撃ち込まれた矢にレイミルさんが反応できたのも斥候の魔物が声なき声で知らせて来たからだという。
「討伐部位ごと魔物が自分で歩いてくれるからエリエリと一緒だとまぢ楽チン。この調子なら、Sランクも間近っぽそー」
「助かっていると言う部分は同意するが、慢心は関心せんな。世界は広い、アイリス殿の様な力を持つ者が敵としてあらわれたとしたら」
「うげ、それはまぢ勘弁」
たしなめるレイミルさんの言葉にリサリアさんがあげた嫌そうな声を聞きながらわたしは足を止める。周囲に散乱するのは無残な躯。
「大丈夫」
余力は充分。損傷の大きな死体を含めすべてをアンデッドへと変え、損傷の大きな個体には自分たちを埋葬する穴を掘らせる。
「あれ? エリエリまた穴掘らせてるのー?」
「死体を使うのは、わたしの都合」
だから、使えない死体に自己を埋葬させるなんてわたしの自己満足でしかないだろう。
「じゃ、討伐部位だけ回収よろ」
だが、リサリアさんはそれを咎めることもなく。
「その前に再利用できない死体を作ってごめんなさいではないのか?」
「あ、エリエリごめんねー」
逆にレイミルさんにたしなめられて謝ってくる。
「本当に――」
わたしは良い仲間に恵まれていると思う。
「おじいちゃん」
大好きなおじいちゃん。わたしは幸せです。いつか、もっと力をつけて必ずおばあちゃんやお母さんともう一度会わせて見せますから、その日までどうぞ見守っていてください。
「エリエリー?」
「すみません」
わたしは声には出さず今は亡きおじいちゃんに語りかけると、訝しむレイミルさんへ謝りながら茂みを出るのだった。
以上、まともな方の死霊術師と現在のお仲間の様子でした。