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四十一話「デートじゃないと主張したい」

「ここは俺に任せて先にいけ!」


 などと言ったら、どこの死亡フラグを立てる人だとツッコミが入ったかも知れない。


「にゅ」


 実際はそう言ってウサギ女勇者が俺に紙を見せただけである。


「扉はこちらで何とかしますから、出かけてきてください」


 と書かれた紙を。


「結局任せて来ちゃったけど、良かったのかな」


 その後、扉のことをウサギ勇者にお願いしちゃった俺達は、逢い引きスポットとやらを確認するために村の中を歩いていた。逢い引きスポットには村内のモノも多かったからだ。今向かっているのもその一つ。


「見張り櫓、ね」


 緊急事態が起きた時つり下げられた半鐘を叩いて住民に危険を伝える他、文字通り高所から村に被害をもたらすモノが来ないかと見張るための施設でもある。


「狭いが狭い故に人が来ることはあまり無く、眺めも最高。足場が不安定なのが玉に瑕ですな」


 何でも村長は何代か前の見張り櫓で逢い引きした時、落っこちかけたことがあったのだとか。落ちそうになるとか何やってたんだよとツッコミたかったが、藪を突いて蛇を出しそうな気もしたし、そもそも会話に加わっていなかった俺にはツッコミなど不可能だった。


「けど――」


 櫓にたどり着き、上ってから顔をしかめる。村長から勧めてくれた場所ではあるものの、村を一望出来るここは畑で農作業をする者、皮をなめす者、薪を割る者、村人が何をしているかが一目瞭然だったのだ。村のことを探ろうとするなら都合の良い場所なのが少し引っかかった。


「考えすぎ、かな」


 二人っきりになれる場所であることも確かで、景色も良い。ここから夕暮れを眺めたり星空を仰げばきっとその光景に目を奪われることだろう。だから、村長も嘘を言ったわけではない。俺の挙げた二つのシチュエーションを味わおうとするなら、時間的に足元が暗くなって、つい先ほど上ってきた足場などが危険であるという問題が浮上するものの、これを解消できればかなり良いスポットだと思う。見下ろせばその高さに高所恐怖症の人にはお勧めできないスポットだけれど。


「って」


 なぜ俺はまともにスポットの評価なんてし出しているのだろう。認めたくないが、評価の仕方が「恋人とデートに行くなら目線」だったような気がする。いや、そう装うことで村人たちの目をごまかすなら、むしろ正しい行動の様な気もするが。


「ひょっとして……」

「ヘイル様?」


 抱きつかれたり振り回されたりしたことで、隣にいる少女を意識し始めてしまっていたりするのだろうか。


「いや、ないな」

「えっ」


 俺は頭を振る。半ば自分に言い聞かせるかのような独言とも取れる形なのがモヤっとするものの。


「ヘイル様!」

「ん?」

「さ、さっきの……もう一度『ないな』って言ってもらっていいですか? その、出来たら蔑むような視線付きで――」


 呼びかけられて我に返った俺を待っていたのは、やはり手遅れ方面に何かをぶち抜いた少女のリクエストだった。


「うん。きっと、気の迷いか」


 いくら免疫がないところに抱きつかれたとは言え、ここまでアレな相手を意識してしまうというのはありえない。


「そもそも俺は――」


 まだ前世を、彼女を忘れられずに居る。いいや、忘れることなんてきっと許されないから。


「ヘイル様、『きっと、気の迷いか』ではなく、『ないな』で――」

精霊治療師(エレメントヒーラー)って、こういうのは治せないよなぁ、きっと」


 専門家でも匙を攻城兵器で城壁に撃ち込んで大穴を穿つレベルだと思うし。


「と言うか、待てよ? 逢引きスポット聞きに来てたコレと二人で居た俺って……考えないようにしよう」


 私情よりも暗黒神崇拝者の企みを潰すことを優先すると一度は割り切ったつもりだったのに、ここにきて決心が揺らいだのは仕方ないと思うんだ。精神保護の観点から、嫌な推測を思考中のカテゴリから蹴りだし、頭を振ると少女にそろそろ降りようかと提案する。


「俺は後から行くから」


 レディーファーストと言う訳ではない。ただ逢引きスポットを見て回るのに武装は不自然だと判断したのか、同行する少女が普段着、しかも下はスカートをはいているからだ。


「次は崖か花畑か……」


 精神的に疲れそうなことが無いように祈りつつ、俺は少女が下に降りきるのを待つ。青い空に浮かぶ白い雲より遠くを見ながら。



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