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三十八話「夕飯は何にしよう」

「とりあえず村長さんには話を通してきたよ」


 パーティーの仲間が居る場所に戻ってまず最初に俺がしたことは報告だった。


「滞在は今貸してる空き家を共有で使ってくれってことだけど……」

「にゅ」


 事後報告に近い形になってちょっと気まずい俺にウサギ女勇者は私は構いませんと書かれた紙を見せつつ頷いてくれた。


「にゅにゅ」

「『一人で使うには広いし、依頼で日中は出かけていたから掃除も行き届いていなくて、人手が多いのは助かるぐらいです』ね」


 きっとこちらに気を遣ってくれているのだろう。紙を見せるウサギの勇者に俺はありがとうございますと頭を下げ。


「ちょっと、それ、借りますね」

「にゅ」


 周囲に仲間以外の気配がないのを確認してからウサギ勇者の手にしていた紙を指さし、差し出されたソレを手に取る。


「続きは空き家についてからにしよう。立ち話もアレだし」


 俺としては一緒に村長の家まで行った一人の少女がどういう行動に出るか気が気でないというのもある。だが、一番の理由は村人に気取られぬよう情報交換することだった。筆談なら窓の位置と外からのぞき込める範囲に気をつけるだけで外にやりとりの内容が漏れることなく話が出来る。


「にゅ」

「なるほど、あれが」

「空き家とは言え民家、煙突も見えるし、屋内で調理も出来そうですね」

「え、エリエリご飯作るの? エリエリのご飯、ホントに美味しいから好きー」


 一軒の建物を示すウサギ勇者に先導されて進む中、誰かが口を開いてポツリと呟けば、建物の屋根を見た死霊術師(エリザ)の言葉に悪魔使いの顔が喜色を帯びる。


「夕飯かぁ」


 例外も存在するが、人はモノを食べずして生きていられない。何処かのゲームの様に食べて傷が治ったり力が湧いて来るというのは特定の職業の人が調理した場合に限るが、その手の回復やパワーアップ効果がなくても食は重要である。優秀な料理人が居れば食事の時間は皆が待ち望む至福の時間に化けるのだから。ちなみに俺の料理の腕は良くも悪くもなく、人並みと言ったところだろう。


「それじゃ、料理当番はエリザに頼んでもいいかな? 追加でお手伝いの人員を何人かつける形で」

「はーい、つまみ食いありならリサリア立候補する-」

「まぁ、食べる分が目減りする程でなければ問題ない……か」


 何故か勝手に特権が付け加えられたが少し悩んでから良しとすることにした。俺を含め幾人かにはやることがあり、食事当番もお手伝いもすることは出来ず、立候補してくれるというならありがたかったのだ。ちなみに、幸いウチの現パーティーに飯マズ、つまり料理が壊滅的に下手なメンバーは居ない。


「そう言えば、前に料理のまずさだけで堪らず追放してしまった人もいたっけ。いや、止めよう」


 話題が話題だけにトラウマ級の何かを思い出しかけた俺は、頭を振る、そして。


「使ってる部屋は一つだけ?」

「にゅ」


 随分近くなった空き家を前に他の部屋も掃除しないと厳しいかなと呟きつつ、再び周囲の気配を探る。


「まぁ、仕方ないか」


 掃除が必要なのがではない幾つかの視線が俺達に向けられていたのだ。村の中に見知らぬ人間が居て会話していれば聞きつけた村人が視線をやっても不思議はない。村長が話すとは言っていたものの、俺達が戻ってくるよりも早く話が伝わっている筈もないのだから。


「中に入っちゃおう。外から掃除する方法とか思いつかないし、部屋割りも決めないといけないからね」


 表向きの理由を口にしつつ、仲間達を促す。


「部屋割りは男女別で良いよね? 掃除の担当も男は割り振られた側の部屋を担当をして、女性側はもう掃除されてると思うから台所まわりとかをお願いして良いかな?」


 空き家に入っても口にするのは、掃除についての内容のみ。同時にウサギ女勇者に貸して貰った紙にペンを走らせ、窓の外から見えない様気をつけつつ簡易な報告に問いを続ける。


「村長宅に怪しい箇所あり。空間魔術でアンデッドを送り込んで調査しようと思うんだけど、可能? 首を振って答えて」


 確実に必要な協力者二名に視線を向け声なき返答を待ったのだった。


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