三十七話「代償と対価」
「それで、その逢い引きスポットというのは?」
村長に計算外があったとしたら、まず騎乗者の少女の食いつきっぷりだろう。
「ち、近い、もう少し離れて下され」
俺一人だったらあのまま村長に弄り倒されていたかも知れないが、そのまま押さえつけられて床に組み伏せるのではと思う程の勢いで接近された村長は俺を弄るどころではなく。
「あ、すみません」
我に返って赤面しつつ騎乗者の少女が下がるのを視界の端に入れながら、俺は無言で室内を見回した。探したのは、隠し扉や隠し部屋だ。暗黒神の崇拝が国に禁止されている以上、崇拝者達に出来るのは神の名を伏せて祈るか、隠れて祈るための施設を用意するかと言ったところだろう。前世の世界でも禁止されている宗教に帰依し隠れて祈る人々は居たのだ。罠師とは罠を駆使して戦う上級職。よって建物など罠を仕掛ける場所の構造を把握したりするのは得意中の得意なのだ。
「失礼しました。それで――」
改めて質問しようとしている騎乗者の少女が村長の注意を引いてくれたお陰で、発見出来た場所は二箇所。一つ目は地下で、歩いた時地下に空洞がある様な感じがしたのだ。ただの地下室とか地下収納庫の可能性も否めないが、そこそこ大きな空間があるのは確かであり。もう一つは使われていない暖炉の向こう。ぐるりと外を一回りした訳ではないが、煙突の位置と右手正面のドアから続く廊下の伸び方を鑑みると左側にも廊下かドアがあっても良さそうなのにそれが無い。
「周辺を一望出来る崖ですか」
「はい、縁まで近寄りすぎると危険ですが絶景ですぞ」
今だ続いている村長と少女の会話をちらりと確認して、考える。もし隠し部屋があるとするならより人に見せたくないモノがあるのは暖炉の向こうだと思う。地下は収納庫もあり得るが、暖炉の奥に部屋があるならそれは人の目から隠す為の部屋以外ではあり得ないからだ。そして、暖炉の奥となると燃えやすいモノを仕舞っておく部屋とも思えないので、後ろ暗い帳簿とかを置いてる部屋でもないと思う。
「えーと」
問題は今見つけた二つの部屋をどうやって調べるかだが、少女を放置したままは不自然。我に返ってどう少女を止めるべきか言葉に迷っている態を演じつつ俺は村長と少女に視線をやる。
「おっと、そう言えばそちらの方が置いてきぼりでしたな。いやぁ、すみません」
これ幸いとでも言う様に俺の方を見た村長は少女との会話を何とか切り上げ。
「それで、わざわざ足をお運びいただいた理由は何ですかな? 逢い引きスポットでしたらもうこちらのお嬢さんにあらかたお話ししましたが」
「いえ、俺達は実は探し人を追いかけてこの村に来たのですが――」
探し人であるウサギ勇者は見つかったものの、会って二言三言かわしたら用事ははい終了という訳にも行かない為、村への滞在許可が欲しいんですけどと申し出る。
「成る程。承知致しました。村の者には依頼を受けてくださった方のお知り合いが数日この村に滞在すると伝えておきましょう。それで、滞在場所ですが、生憎村の空き家はあの方にお貸ししている一軒のみでして……」
お知り合いと言うことですし、そちらでご一緒する形で宜しいでしょうかと確認してきた村長に俺は頷いた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。では、私はあなた方のことを村の皆に伝えねばなりませんので」
「はい、お手数をおかけします」
笑顔の言葉に笑顔で応じ、ひとまずはこんな所で良いだろう。我が身を色々犠牲にした気はするが、気になる情報が得られはしたし、村への滞在許可も取り付けた。その分、一緒にいる少女との話し合いの難易度が上昇したりしてる気もするが、あくまで俺個人の話だ。
「とりあえず、みんなの所に戻るよ。話はついたって伝えないといけないし」
「あ、はい」
逢い引きスポットとやらの事を考えて居たのか、若干心ここにあらずだった騎乗者の少女に一声かけると俺達は村長の前を辞し、来た道を引き返す。
「さてと」
戻ったらパーティーメンバーやあのウサギ女勇者へ確認しないといけないことが幾つか。うまく行けば隠し部屋の確認作業の方は問題なく出来ると思われる。それはとある二人への質問の答え次第だが。
「あとは、あれかな」
あれだけ少女の方が熱心に聞いていた逢い引きスポットとやらの事について。全く足を運ばなければ不自然だと俺でも思う。つまり、恋愛的なお付き合いを避けていた少女とのデートらしきモノが予約されてしまった様な気がして。
「はい、後で行ってみましょう」
俺の独り言に少女は嬉しそうな声で答えた。あかん、これは確定ルートだわ。
とりあえず今回も改行バージョンで。
見やすくなったかなぁ?




