三十四話「説明と協力要請」
「もふもふなのですよー」
話をしようとした相手が、本題に入る直前でパーティーの狂戦士に抱きしめられた時、俺はどうすればいいのだろうか。
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
そんな最近ご無沙汰な台詞が一瞬頭に浮かんだのは、きっとアイリスさん辺りの謀略だと思うのでさらっと無視するとして。
「まぁ、アリエラさんも知ってることだし、いいかな。実は暗黒神を崇拝する連中がこの近くの峡谷辺りで何かやらかそうと暗躍してるって話を聞いてさ」
「放置出来ないと足を運ぼうとした場所にもふもふさんが既に向かったところだと聞いたのですよー」
ウサギ勇者を抱きしめたままアリエラがここぞとばかりに話に加わってきたのは、この場に居ても良い理由が欲しかったのか。
「もっとも、ここに足を運んだ理由はそれだけじゃないんだけどね」
この子を追いかけてきた幼馴染みのウサギ戦士が鉱山の町まで来ていること、それとは別件で俺もこのウサギ勇者に話があることを伝えようとしたのだが、ウサギ女勇者は幼馴染みの話のくだりで狂戦士の腕を振り解き、四つ足で地面を蹴る。
「にゅぶっ?!」
「べっ?!」
きっと本当に仲の良い幼馴染みなのだろう。筆談すら忘れて、きっと俺に詰め寄ろうとしたウサギ少女がくれたのは、勢い余った猛烈なヘッドバッドだった。
「ぐ、上級職の俺が回避し損なうどころか反応出来ないとか……」
「にゅぅぅ」
流石は勇者と賞賛すべきなのだろうか。頭部の痛みはまだ引かず、そのウサギ女勇者も頭を前足で押さえて地面をのたうち回っているのだけれども。
「精霊よ」
「ありがとう」
痛みは長く続かなかった。額の辺りが温かくなり症状は治まり、近くから聞こえた声へと俺は礼を言う。
「礼は要らぬ。我は治療師、仲間を癒やすは我が宿命」
中二病にもかかわらず、常識人な所のあるカルマンさんのフォローはこう言う時にありがたい。
「ええと、何処まで話したっけ? ああ、幼馴染みの戦士の彼だけど、今は鉱山の町で待機して貰ってる」
本当はこのパーティーに入れて再会を演出してあげたかったのだが、ウサギ戦士の実力はアリエラに届かず、二人を一緒にパーティーに入れた場合、異性とはいえアリエラがウサギ戦士にセクハラまがいのモフモフをやらかす恐れがあったのだ。
「漸く再会した幼馴染みが異種族とは言え見知らぬ異性に抱きしめられてる所とかを目撃したらなぁ」
最悪の場合、修羅場になる。魔王とウサギ一族のいきさつとか聞きたいことがあるのに自分からトラブルの種など持ち込めず、一部の面々が説得に説得を重ねてくれたお陰でウサギ戦士は待機組所属を了承してくれた。
「暗黒神崇拝者達が何をやらかすかって詳しい情報までは得られなかったからなるだけ最高戦力を揃えたくてね」
「にゅん」
ウチのパーティの一員であるアイリスさんが一部の味方にもデメリットをもたらす固有技能の持ち主であることは、パーティーを組んでいたことのあるウサギ勇者の彼女も知っている。それなら仕方ありませんねと書かれた紙を少し残念そうにこちらへ見せ。
「別件で話したいこともあるけど、まずはその暗黒神崇拝者の企みを阻止しないとのんびりお話しをって訳にはいかないからね」
ウサギ女勇者が魔物の討伐が終了してるかはまだ聞いてないが、仮に依頼はこなしているとしても依頼元の村が被害を受けかねない事態だ。
「お話はわかりました。見過ごせませんし、協力しましょう」
にゅと短く声を発してウサギ勇者はそう己の意思を綴った紙を見せ。
「ありがとう。先行して偵察してくれている仲間が居るから、そちらと村の近くで合流してから俺達は動くつもりで居る」
今のところ異常有りという様な緊急連絡もなく村の近くまでたどり着けてしまっているのが少し気にはかかっているが、暗黒神崇拝者達だって情報を掴んで動いている者が居るとは知らないはずだ。
「先行偵察の二人に何事もなかったなら、この先に居るはず」
村ではなく、村の手前なのは騎竜が村人を怖がらせるかも知れないというクレインさんの配慮だ。村に竜の世話が出来る様な施設がないであろうというのも村の手前で降りる理由の一つであり。
「あ、いた。おーい」
話を終えて歩くこと暫し。少しこんもりと盛り上がって丘の様になった斜面に一頭の飛竜と佇む人影二つを認めた俺は片手をあげて二人へ呼びかけた。




