三話「死霊術師」
ダークぽい展開及び流血表現などご注意
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
何度も繰り返してきたその言葉を別れに使えない事も時としてあった。
「どうして――」
わかったのと言いたかったのか、気づいたのと言いたかったのか。
「性善説を信じるほど楽天家ではなかったからね」
肩をすくめた俺を取り囲む骨たちが虚ろな眼窩で見つめる。その骨たちはほとんどが人外、ゴブリンやコボルトと言った魔物のものであり手前に居た個体の頭蓋骨に残る割れ目には見覚えがあった。ござる口調の少年が以前倒した個体だったのだろう、いつぞやの依頼で無双して居たとき最初に刃にかかったゴブリンと斬られた場所が全く同じなのだ。
「ゾンビにしなかったのは臭いで気取られるから。骨の方がかさばらないってのもあるかもしれないか」
「ふん、お見通しってことか」
言外に認めた青年の職業は死霊術師。お話だといかにも敵役側っぽい職業だが、公式にちゃんと認められている職業ではあるし、俺たちがパーティーに迎えた死霊術師は彼が初めてだったわけでもない。
「エリザはお前とは違うタイプだったからね」
死体をアンデッドとして使役する職業柄マイナスのイメージを持たれやすいにも関わらず、けなげに一途に大好きな人の為にまっすぐ努力をし続け、追放されるときなんでもすると口にした少女のことを思い出し、俺は嘆息する。あれは俺たちにとっても黒歴史ではあるが、まだ笑い話にできるレベルであると思う。
「エリザ?」
「気にしなくていいよ。必要もないし、おそらく意味もない」
アンデッドでこちらを囲むような状況を作り出している時点で、彼に敵意があることは明白。これが前述の少女であれば誕生日パーティーのドッキリではないかと一応確認を撮るところだが、目の前の青年にそんな茶目っ気交じりの好意があるとも思えなかった。それに、俺を囲む骨たちはほとんどが人外、つまり幾体か人骨のスケルトンも混じっていたのだ。そう言う意味でもこの青年はアウトだ。
「余裕ぶってんじゃねぇよ!」
「性質は下種、更生も不可能、才能だけはそれなり……野放しにすると色々事件を起こしそうだったから、誘ってみたけど、結局予想の範囲内に収まっちゃったね」
俺たちが最終的にわざとメンバーを一方的に追放している理由はこの手の火種を経過観察して、本当に開放しても大丈夫かと言うテストの半面もあったのだが、まさか追放前に自分から馬脚を露す輩まで居たとは。
「俺たちを分断して各個撃破、殺した者を下僕にして戦力の補充も図る、か」
最初に俺を狙ったのは魔への重圧という固有技能がある赤毛の少女と彼の相性が最悪であり、前衛であるござる口調の少年トリッパーの剣の腕もよく知っていたからからこその消去法だと思う。
「本当に俺は運が悪いなぁ」
くじ運だけではなかったらしい。
「はっ、今更気づい――」
「人はあまり殺りたくないんだけど」
嘆息しつつ、得意げな青年を冷めた目で見て、俺は足元に張った糸の一本を踏み切った。
「え」
呆然とした顔で全身を切り刻まれた青年が血しぶきを上げ、崩れ落ちる。
「そういえば見せたことなかったね、俺の魔法。既存の罠を呼び出したり魔法で強化する罠魔法。まぁ、俺の『これ』もパーティーに居ると弱体化して使いものにならないし」
俺たちのパーティはばらばらにされたときこそ真価を発揮できる。と言うか、パーティーを組んでいる状態がある意味縛りプレイ状態なのだが、その負荷こそが俺たちをSランクまで押し上げたといっても過言じゃない。一緒に居るだけでとんでもなくハードな訓練になるのだから。
「さてと、死体と骨は落とし穴に落とすとして、呼び出した斬糸トラップ補充しておかないと。落とし穴の補充もいるなぁ」
罠を作る、召喚用に収納するという手間が必要なのが罠魔法のデメリットではあるものの倒した相手の死体の処分を鑑みるといつでも呼び出せる落とし穴は結構便利だと思う。
「この手の輩が逆恨みであるいは自身のしたいことの為に何にも関係ない人に被害を及ぼすことに比べたら、ね」
俺たちは護衛の仕事で襲ってきた山賊を返り討ちにしたことだってある。人を手にかけたどうこうは今更だ。
「とはいえ、後味悪いなぁ」
それでも俺たちは新メンバーを迎え入れ、追放するのを繰り返すのだろう。俺たち三人それぞれの目的のため、また同郷の出であるまだ見ぬ人と出会うために。
と言う訳で、主人公たちが追放ではなく和解の後の門出をさせない理由の一部でした。
主人公は中衛で罠解除とか敵の襲撃を警戒する所謂盗賊とかレンジャーポジションとなります。