三十二話裏「精霊治療師は知っている」
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
Sランクとパーティーに属する彼でも組織の力には抗えないというのか。本心からの追放でないことを我が精霊は看過していたが、ここでそれを指摘しては今この時も我を監視する組織の人間の警戒レベルを引き上げてしまう。
「それが宿命ならば」
我はそれだけ答え、彼つまり罠師ヘイルのパーティーから抜けた。選ばれた人間には苦難がつきまとうモノだが、本当に難儀なことだ。
「くっ、精霊が――」
我が精神の波立ちに影響されたのか、精霊との交信に使うミスリル製の手甲が熱を持つ。
「いかん、な」
この程度のことで力の制御を誤りかけるとは。我は選ばれた人間、力有る人間ならばその責を果たさねばならない。力の制御などその義務の一つであろうに。
「しかし、ヘイルか……彼には我とどこか近しいモノ感じた。運命線はまた何処かで交わるのだろうな」
そは直感であり、確信。
「確信したが故に必然、ならば」
そして、そんな過去が現在に至り、我とヘイルは再び出会い、今、パーティーを組む。浅き古の記憶から舞い戻った我は仲間達の中に体調を崩している者が居ないかを聞いて回る。何処かに組織の目がある状況では能ある鷹とて爪を隠さねばならない。何処にでも居る精霊治療師と言う凡庸な仮面を被り振る舞わねば、我の優秀さからかの組織は何らかの手を打ってくるはずだ、だから。
「無理だ」
自分を慕う少女の変態を直してくれと密かに打診された我は匙を投げるしかなかった。凡庸な精霊治療師の手には余る内容なのだ。決して治す方法に見当がつかなかったからではない。
「しかし、暗黒神とはな」
選ばれし我は良くも悪くも神との縁まで引き寄せてしまうと言うのか。
「もしや」
暗黒神を崇拝する者どもが暗躍しているとのことだが、狙いは我か。充分にあり得ることだ。肩こり腰痛打ち身に痣、数多の困難をたちどころに取り払う我の恐るべき力、渇望したとしても無理はない。故郷でも老人達に引っ張りだこであったからな。
「精霊よ、押さえてくれ、こらえてくれ」
また熱を帯び始めたミスリル製の手甲に語りかけると顔を上げ、我は空を仰ぐ。
「キャッーキャキャキャキャ」
近くで奇っ怪なアンデッドの笑い声がした。仲間が死体を再利用してつくったモノだが我は密かにそれを作り出した感性に衝撃を受けた。
「エリザ、彼女もまた選ばれた者なのやもしれん」
もし我が死霊術師だったとしても、アレを作り上げる発想はない。
「だが」
悪戯に才を示せば組織の目に留まってしまう。そして、職業を斡旋されやがて家庭を築き、気が付けば凡庸な人間の一人と化してしまう。牙を抜き、才を腐らせ、平穏な生活という毒に浸かりきって抜け出せなくなる。我はそんな末路は御免だ。故に、故郷を捨てて流離っているのだ。
「カルマンさん、そろそろ出発するよ?」
「そうか、訪れたのだな」
出発、この先に我を何が待ち受けるのか。だが不安はない。我は選ばれた者、この運命が必然ならば、結果を恐れる必要など無いのだ。
「精霊よ、時は近いのやも知れぬ」
手甲に施された彫金の魔法陣をそっと指でなぞり、軽く己の手首をもう一方の手で掴む。手甲があって脈は感じ取れないが、そうしているとミスリル製の手甲がまた熱を帯びてくるのが着用していない側の手でもわかる。
「そうだ。運命は我らを運ぶ。選ばれし故に」
行く先は地獄か楽園か。
「あのヘイルが複数の力有る者に声をかけたならば後者だろうな」
凡庸な者であればするであろう推測を口にすると我は歩き出す。
「しかし」
組織の者もご苦労なことだ。幾ら我を見張るためとは言え、魔物の襲撃すらあり得る行軍する我らをを監視しつつ隠れてついてくるとは。
「キャッーキャキャキャキャ」
「いや、ついてくるのは案外楽か」
存在を周囲に知らしめるアンデッドの笑い声に我は珍しく見解を修正すると肩をすくめた。
中二病に見えるよう努力してみたつもりです。
ちゃんと中二病に見えるかな?(どきどき)
尚、中二病の人が何度も口にしてる組織とやらはぶっちゃけると実在しません。中二病故のアレですので。




