三十二話「誤算」
「苦しませるからSなんてレッテルを張られるんだ」
ならばどうすればいいかを考え俺の出した結論は、即死させること。苦しませず、死体が笑顔を浮かべていれば完ぺきではないかと。
「幸い笑わせる方はそう言う毒があるし、召喚用にストックしてる罠には即死トラップも存在するし、材料は揃ってたからね」
あとはエリザが死体をアンデッドに再利用できるように死体をあまり損壊させない事さえ気を付けてればよいはずだった。
「ヘイヘイ、あれヤバすぎ」
拘束されて笑い転げる魔物に一撃でトドメを刺したのだが、トドメのタイミングが拙かったのか、舌は口からこぼれだし、半ば白目をむきかけた亜人種系モンスターの死体と言うモノを作り出してしまった俺に三歩ほど後ずさりし引きつった顔でぼそっとこぼしたのは悪魔使いの女性だった。
「おかしいなぁ」
出来上がったのは見た目的にひどすぎる死体。
「アンデッド作成、開始します」
フォローのつもりなのか、エリザはすぐ作業移ってくれたが魔物の死に顔は仲間の幾人かが目撃してしまっている。アンデッド化させてその強烈な印象がぬぐえるとは思えず。
「思ったより進んでたのかな。魔物が襲撃してくるとか」
俺は無駄な努力かもしれないと思いつつも話題を変えようとする。
「言われてみれば」
反応してくれたのは、召喚師。確かレイミルって名前だったと思う。
「話にあった暗黒神崇拝者達の企む何かが関係してるのか? 暗黒神、これも宿命と言うことか」
どことなく思わせぶりなことを言うのは、精霊治療師のカルマンさん。俺とアイリスさんそしてユウキの三人から満場一致で中二病認定された人物だ。まぁ、行動のあちこちに中二病がにじみ出ることがあることさえ気にしなければまっとうな部類に属する。
「とりあえず、暗黒神崇拝者のやらかそうとしてる何かの影響下持って部分は安易に否定できないかもね」
凶悪な魔物が出現しただとかみたいな理由で住処を追われて逃げ出してきた魔物と本来遭遇しないような場所でエンカウントするのはファンタジーなネット小説だと割とよく見かけるテンプレの様な気もするが、それで説明はついてしまうのだ。
「ここで『暗黒神の召喚とか具現化とかじゃなきゃいいけど』とか言うとフラグになるよね」
もっとも、そうホイホイ簡単に召喚されていようものなら世界はとっくに滅んでいそうな気もするけれど。
「クレインさん達からの連絡はなし、かぁ」
空間魔術師が一緒に居て何も音沙汰がないということは、順調で報告すべき事柄がないということだとは思う。半日たっても報告ナシなら異常事態に巻き込まれたのかと心配するが、そこまで時間も経過していないのだ。
「キャッーキャキャキャキャキャキャキャ。ウキャッキャキャキャキャ、キャーッキャッキャッキャッキャ」
「とりあえず、想定外の襲撃に警戒しつつ村に向かうしかないかな。みんな、行こう」
延々笑い続ける亜人種魔物アンデッドとして爆誕してしまったナニカを俺は見なかったことにして、仲間を促すと歩き出す。
「エリエリどんまい」
「ありがとう」
後方で慰められてるエリザと悪魔使いのやり取りを耳にしたときは俺も何か声をかけておくべきだったかと少し後悔したものの、何と声をかけるかが思いつかず。そもそもアンデッドが狂ったように笑う原因が何かと問われればまず間違いなく俺の笑い薬である。
「うん」
タイミングを逃した気はするが、エリザには後できっちり謝っておこうと思う。ずっと歩き通しで村まで行くつもりもない、休憩時なら話しかけるタイミングはあるはずで。
「ヘイル様、お疲れさまです」
しばらく歩き、ようやく訪れた休憩の時間。エリザに話しかけるどころか全く別のMっぽいのに俺は話しかけられていた。
「あー、うん」
普通に考えれば簡単に思いつくであろうに、俺はなぜその可能性を忘れていたのか。だが、そもそもが身から出た錆でもある。
「ヘイル様、何処に」
「ちょっとエリザに話があってね」
騎乗者の少女がついてきたとしても構わない。エリザに謝るべく俺が足を運ぶと。
「キャッーキャキャキャキャ」
「……ふぅ」
笑い狂うアンデッドを見つめたエリザが小さくため息をついたところだった。やはりエリザの美的感覚的にもそのアンデッドはアウトだったのだろうか、俺の罪悪感は増し。
「エリザ、少し良いかな?」
「ヘイルさん? 構いませんが」
「そう。……ええと、このアンデッドの材料のことゴメン。俺が笑わせたりしたから、こんな事に」
振り向いたエリザへ頭を下げた。そして、頭を上げずに俺はエリザの反応を待つ。
「ヘイルさん、頭を上げて下さい」
俺が頭を下げてから沈黙は何秒ほど続いたか、促されて頭を上げるとアンデッドの肩に手を置いたエリザが居り。
「……この子ですが、微笑み一号と名付けました」
「えっ? え? え?」
得意げな顔でアンデッドを示すエリザを前に俺はアンデッドとエリザを交互に見ることしか出来ず。
「気にすることはありません、むしろ気に入りましたから」
「え゛っ」
彼女も常人とは違う感性の持ち主であることを俺は思い知らされたのだった。
次回は精霊治療師を捕捉する為、三十二話裏になると思われます




