番外「その頃のユウキ」
「しかし、人生何が起きるかわからんでござるなぁ。異世界トリップも大概だと思ってござったが」
両腕の塞がったユウキと言う名の少年は、肩をすくめると空を仰いだ。千切った綿片の様な雲がまばらに散る青い空を一羽の鳥が飛んでゆく。
「こっちの鳥の名前とかはまだあまり知らないでござるが、どっちかと言うと食料系の鳥でござったなぁ、あれは」
名前は知らねども食べた記憶のあった少年は、距離的に無理でござるなと呟くと両腕で抱えていた荷物に少しおとなしくしているでござるよと声をかけてから片腕を解き、開いた手で腰のポーチを開けると中をまさぐる。
「あちゃあ、こっちの干し肉もそろそろなくなると……リサーブトまで強行していた方が正解でござったかー」
「ピィ」
干し肉の在庫が底をつきそうな理由は、腕の中で一鳴きして首を傾げたハーピーの雛と二人で食べたからであり、城塞都市にたどり着けていない理由は寄り道して狩りをしたり採取をしていたからだったりする。
「肉食寄りの雑食、色々食べられるのは拙者としても助かったのでござるが、佳樹殿達と違って拙者は異世界生活短め故サバイバルとなると……うむむ、ちょっとカッコつけすぎたでござるなぁ」
ボヤきつつも少年の顔は切羽詰まった様子ではなく、苦めの笑みと共に嘆息し視線をポーチから道のわきに立つ道しるべへとやる。
「ふーむ、前にここに至るまでから逆算すると、あと一回ぐらいどこかで食糧調達する必要があるでござるか。リサーブトに近づいているわけだし、運がよければ行商人と出会えるかもしれないでござるが、会えたらラッキーってレベルでござるし」
悩んでいても仕方ないでござるなと自己完結した少年は、ハーピーの雛を抱えて再び歩き出す。
「さて、ただ抱えられているだけも退屈でござろう? そうでござるな、次は智樹殿が暗黒女神官を追放した時の話でも――」
もしハーピーの雛に聞かせる話の登場人物と言うか主役が居たら全力でやめろと言っただろうが、この場にはその智樹殿も居らず。
「これは珍しいケースでござってな」
「ぴぃい?」
「そうでござるな、この話で人間には良い人間も居れば悪い人間も居ると知ってもらえれば幸いでござる」
再びこてんと首をかしげるハーピーの雛に頷きを返すとし少年は語りだす。
「まずその暗黒女神官と出会ったのは――」
少年は語った。出会いは偶然であったと。
「こう、何故でござろうな。智樹殿が見つけてくる女子はおっぱいの大きい率がそこそこ高いのでござるよ。ああ、そういう意味ではひょっとしたらそなたも有望株だったりするのやも……いや、拙者は幼女は対象外で」
「ぴ?」
急に頭を振りだした少年の腕の中、きょとんとする様からすればハーピーの雛はおそらく少年の言うことを殆ど理解していないのだろう。それが幸か不幸かと言うならおそらく幸に違いない。
「その時、性根が曲がっていた暗黒女神官は、拙者たちを陥れようとしたのでござるが、智樹殿は見抜いていたのでござろうな。罠を作動させるとロープに足を引っかけられた暗黒女神官はメイスを落として逆さ吊りになりローブの裾を抑えて哀れな悲鳴を上げたのでござる。捕らえられた暗黒女神官は智樹殿が調き、お仕置きして更生し――」
一部いかがわしさがちらほらしていたのだから。その智樹殿が知ったなら逆さづりにされるのはこの少年だったことだろう。
「あの時拙者、どれだけ罠師になりたいと思ったことか」
「ぴー」
ツッコミ役の不在とはかくも罪深きことなのか。
「と、まぁそんな話でござッ」
情操教育的にはアウトな話を締めくくろうとしていた少年は突然顔をしかめると、後ろに飛ぶ。直後に石つぶてがそれまで居た場所を叩き。
「ロックシューターッ、魔物でござるか」
少年は視界にずんぐりとした巨大な芋虫を見つけすぐさま物陰に隠れようとするも芋虫は口から次弾を撃ち出す準備を終えていた。あと1秒あれば少年めがけ石が飛んできたことだろう。
「な」
どこからともなく飛んできた瓶が直撃し、生じた爆発に魔物が呑み込まれなければ。




