二話「付与術師と彼」
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
これでこのセリフも何度目だろう。と言うか、無駄にデジャヴを覚えるくらい繰り返している気もする。
「っ」
ただ、今回の少年は縋ることも反論することも文句を言うこともなかった。ただ、口を真一文字に結んで拳を握り締めるだけ、その理由も俺は知っている。
「付与術師、ねぇ」
そう、彼の職業は付与術師。味方の能力を底上げしたり、逆に敵を弱体化させるのが得意な職業だ。一見すると地味だが、その効果は侮れない。まぁ、ウチのパーティーには魔物限定で相手を大幅に弱体化させる固有能力の持ち主が居るので、ある意味被っているがそれだけが理由でパーティーから追い出す程俺達は狭量ではない。この少年が転生者かトリッパーならもっと使えなかったとしても追放と言うことにはならなかったと思う。
「付与術師って言うけど俺達に恩恵ってあったっけ? 戦いが楽になった気とか全然しないけど」
「ううっ」
首を傾げてみれば、少年は俯く。華奢で一見すると少女と見まごうばかりなのでこうやって彼を責めていると自身の悪役的な立ち位置が際だって気が滅入ってくる。もちろん表には出さないが。
「そもそもねぇ」
少年の付与術師としての能力が仕事をしないのにも理由はある。先日のビーストティマーの女の子の時と同じだ。もっとも、固有技能の持ち主が違うが。ござる口調のトリッパー、彼の固有能力である魔法減退の効果なのだ。
自身と周囲に発生する魔法の効果を大幅に減少させるという効果は完全に魔法職を殺しに来ている。完全無効かではないし減退率や効果範囲もある程度調整は出来ると言うことなので、一応彼の付与能力はスズメの涙くらいは仕事をしているはずなのだが、パーティーからするとお荷物でしかなく。
「サボってるとか言う気はないけど、お前が居ると新しいメンバーも入れられないし」
なんやかんやで今まで何人ものメンバーを追放してきた理由がこれだ。ちなみに、この部分は取り繕った訳ではなく完全に俺達の本音でもある。三人居たんだから探せば同郷の人間はまだ居るのではないかと言う理由で俺達は四人目のメンバーを追い出しては新しいメンバーを加えると言ったことを繰り返している。
「じゃ、お達者で」
「っ、お世話になりました」
パーティーに貢献出来ていなかった事が事実だからか、今回の男の娘付与術師は引き下がるのが早かった。
「終わったよ」
いつもの様にドアの向こうで待機している仲間達に俺は告げ。
「うう、良い子だったのに」
ずーんと今回凹んで現れたのは、赤毛の少女の方だった。
「目に見えて落胆してるな」
「まぁ、男の娘でもござったし」
異性に転生してしまったものの跡継ぎを残すため子供を作らないといけない立場の少女は精神的なBLに耐えられる相手を模索した結果、男の娘なら妥協出来ると言う結論に至ったらしい。
「佳樹殿にとっては、男の娘限定でのお婿さん捜しでもござるからな」
「だから転生前の名前を出すなぁぁぁぁ!」
結局の所伴侶にすると決心するところまで行かず、追い出すことに同意しつつも未練は有ったらしい少女がトリッパー少年の襟首を掴んで絶叫する。
「まぁ、TS転生していない身としては何も言えないよな」
ちなみに俺も転生者ではある。だからこそこの二人とパーティーを組んでいられる訳だが。
「それに、追放という形ではあってもただ別れただけだし……暫くして街中で再会してそこから始まるラブストーリーってことも」
女性側の中身元男だと言うことを考えなければ何処かに転がっていてもおかしくないストーリーではある気がする。ちなみに彼女と一緒になる場合、婿入りして少女の実家を継がなくてはいけなくなるのでくっつく場合でもパーティー残留は無いどころかパーティーメンバーがもう一人減ることになるのだが、それはそれ。
「拙者として再会と言うと『ざまぁ』展開を連そ」
「「やめろ」」
不穏な事を言い出したトリッパーに俺達転生者の声がハモる。
「悪役ぶって追放はしてるけど『荷物や装備を根こそぎ貰ってゆく』とかガチでテンプレで外道な真似まではしてないでしょ!」
「だね。まぁ、例外って言えば例外も有ったけど……ごめん」
つい触れてしまった苦い記憶。二人が何か言う前に俺は謝った。