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二十五話「ウサギさんの事情」

「成る程、詳しいことを知るのは長老格と勇者のみ、と」

 あのMい少女が戻ってきてしまっては拙いとウサギ戦士に筆談で話を聞いたところ解ったのは、ただ一つ。やっぱりあのウサギ女勇者を見つけて話を聞かないと何もわからないであろうと言うことだけだった。

「にゅーん」

「あ、えっと、それがわかっただけでも充分ですから」

 何処か申し訳なさそうなウサギ戦士に俺が出来るのはフォローぐらい。

「ヘイル、今こそいつもの台詞で追放する時よ!」

 とか隣のアイリスさんが言い出していれば全力で抗議したところだが、流石にそんなこともなく。

「それで、あなたもあの勇者の子を追いかけてるんだったわね?」

「にゅっ」

 話題を変えつつアイリスさんのした確認にウサギの戦士は頷いた。何でも彼はあのウサギ女勇者の幼馴染みだそうで、勇者が旅立つ時供を希望していたのだという。だが、族長達から供をするには実力的に不相応と見なされ、供をすることを許されず。

「実力をつけ、供をする事を許されて今に至る……か」

 ウサギの勇者には強くなって必ず追いかけるから待っていてくれと旅立つ時に伝え、ウサギ女勇者もこれを信じ、時々今はどこそこに居ますとか次は何々に向かうつもりですと言った内容の手紙が彼に届いていたのだとか。

「最後の手紙は『武器に必要な鉱石を産出する坑道に魔物の群れが湧いてしまい、駆除をお手伝いするから暫くこの地に滞在することになりそう』だっけ」

 追いつき合流するチャンスと思ったウサギ戦士の彼は故郷を出てこの町に向かい、丁度俺達と同じぐらいのタイミングでこの町にたどり着き、あのウサギ女勇者を探していたらしい。


「だとすると急いでたよね。すみません、呼び止めて話を聞いたりして」

 事情を聞いた俺がそう頭を下げると、ウサギ戦士はにゅにゅと鳴いた。謝罪には及ばないとペンを走らせた羊皮紙を一端こちらに向け、手元に戻して更に文字を書く。

「筆談だから大変だよね、この人達」

 謝罪した時のことを思い出して俺は遠い目をした。

「けど、良かったじゃないの。これで久しぶりの四人パーティーでしょ」

「あー、うん」

 目的が同じウサギ勇者を捜すことなら一緒に行こうと声をかけられ、Mな少女を入れれば俺達は四人パーティーとなった。

「これで――」

「またパーティーメンバーを追放出来る、ヘーイ」

「アイリスさぁん?!」

 人の台詞を捏造するのはそろそろ止めてくれないかな。あと最後の語尾は何。

「真剣な話が続くと肩がこるでしょ」

「にゅん?」

 そういうものなのかと書かれた羊皮紙を持つウサギ戦士を見て、俺は密かに誓う。彼が間違った認識を持たない様に俺がどうにかしないとと。

「それで、話はどこまで進んでたかしら? 確か、坑道に湧いた魔物は数日前に退治されたのよね」

「にゅ」

「『さっきの鍛冶屋そう聞いた』か」

 頷くウサギ戦士の羊皮紙を読みつつ俺は考える。

「退治されて安全が確認され、鉱石が採掘されるまで数日で済むのかどうか。ひょっとしたら、あの子はまだ武器の完成に至らずにこの町で武器が出来上がるのを待っている可能性も充分に――」

 ウサギ戦士の彼曰く、あの鍛冶屋に同族が尋ねてきた事はないそうで。

「手分けして探すのが良さそうだね。アイリスさんを呼びに行って貰ったあの子にはここに書き置きを残しておけばいいし」

 話を聞いたのが宿で良かった。ウサギ戦士はさておき、俺達他の三人は泊まるため最終的にこの宿に戻ってくるだろうし、あの少女がアイリスさんを探してここに戻ってくる事も充分有りうる。

「俺は書き置き用意する必要があるからちょっと残るね、二人は先に」

「にゅ」

「わかったわ」

 促せば返事をして歩き出した二人を見送り。

「さてと、じゃあ俺は伝言を……あ」

 伝言用にメモを用意しようとして、ふと気づく。

「ひょっとしてあの子と同じ宿に泊まるの、俺?」

 言い含めたから俺が社会的に死ぬ様な言動は見せていないMな少女だが、それまでに手遅れ的な言動も幾つか見ているのだ。

「い、いや大丈夫……部屋を男女でわけて二部屋借りれば良いだけのことだし」

 問題なんてない。無いに違いない。呪文の様に繰り返しながら俺はペンを走らせた。


しまった、誰も追放出来てない

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