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二十四話「彼女と一緒に」

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 効果がないどころかご褒美になってしまうとしても、俺は心の中でその少女を幾度か追放した。

「ヘイル様、鍛冶屋があるのはあちらですよ」

 ピタッとくっつきながら俺の腕に自分のそれを絡めた少女に誘導され、歩く鉱山の町。

「以前パーティーメンバーだったウサギ獣人の勇者に聞きたいことがあり、行方を捜している」

 ウサギ女勇者と魔王様のことをどこまで打ち明けるべきか迷った俺たちは、旅の目的についてそう話した。間違ってはいない、だが全ても話さない。そしてこちらも重要だが、俺の社会的信頼を損なわないような言動を心がけるようにとも言い含めておいた。

「俺は間違えたのかな?」

 言い含めようとしてむしろ命令してほしいとお願いされたときは天を仰いだ。もう、完全に手遅れの域に達していたのだ。避けるのではなく、出来るだけ早く再開して矯正すればここまで歪んでしまうことなどなかったのではないかと。

「いつもだ、いつも間違えてばかりだ」

 その挙句、目を背けたい事柄から逃避しようと追放するイメージを想像の中で重ねるのだから、本当に度し難い。

「ヘイル様?」

「ごめん、何でもないよ」

 訝しむ少女に苦笑を返し、畜生俺もあんな娘にモテたかったと言う悲痛な見も知らぬ青年の叫びを効かなかったことにして足を動かす。腕を組んだ男女のペア、きっとカップルが歩いているように見えるのだろう。アイリスさんは面白がったのか、この娘に気を使ったのか、別行動を申し出てここにはいない。

「けど、流石鉱山の町、鍛冶屋も多いね」

「はい」

 誤魔化すように話題を作れば、少女は本当にうれしそうに頷く。言い含めたからか、余計なことは何も言わない。これがデフォルトだったら、なぁと思わないでもないが、今はそれよりも目的地に着き、欲しい情報を手に入れる方が重要であり。

「あ、看板が出てる。あそこ、かな」

 建物の脇から自己主張するソレに気付いた俺は少女に行こうと促す。とは言え期待はしていなかった。俺自身が言ったようにこの町は本当に鍛冶屋が多いのだ。

「まいどあり、また来てくれよな」

「にゅっ!」

「え」

 だというのに店の中から聞こえたやり取りの片方は言葉と言うより鳴き声の様であり。

「にゅ」

 言語化するなら、すみませんとかその辺りだろうか。立ち尽くす俺の前に現れたのは、あのウサギ女勇者ではなく、同族と思われる斧を担いだウサギ獣人だった。

「にゅ」

「あ、すみま、って、そうじゃなくて!」

 こちらが突っ立ったままだったからか、ウサギ戦士はもう一度鳴き、俺は反射的に脇に退こうとしてから頭を振る。

「ちょっと、いいですか? お話を聞かせて貰いたいんですけど」

「にゅ?」

 あのウサギ女勇者で無かったのは想定外だが、同族となれば敵対してる魔王とのいきさつだって知っていることだろう。手がかりをみすみす逃す手はない。

「にゅっ!」

 頷きつつ鳴いたということはOKと見ていいだろう。

「ヘイル様?」

「あ、この人、探してた人と同族の人だと思うから話を聞こうと思うんだ。悪いけどアイリスさんを探してきてもらえる? 俺一人で話を聞くより有益だろうし」

 訝しむ少女に伝言を頼むと俺はウサギ戦士に向き直る。

「すみません、ええと、そんなに離れていない場所に宿をとってるので、お話はそこで構いませんか?」

「にゅっ」

 再びの首肯へよかったと密かに胸をなでおろし、こちらですと先導する形で歩き出す。

「まぁ、仕方ないよね」

 アイリスさんをダシに使ってしまったが、全てを話す予定で無い少女をこのウサギ戦士との話に同席させるわけにはいかない。

「あの子が戻ってくる前に――」

 魔王とのいきさつについて聞けるだけ聞き出さなければ。勇者の行方についても念のため聞くつもりではあるが、そちらは少女がアイリスさんを連れてきた後でも問題なく。

「あら? ヘイ」

 聞き覚えのある声に振り返れば、俺の腰の高さ辺りに視線を固定して立ち尽くすアイリスさんの姿。おそらくは声をかけようとしてウサギ戦士に気が付いたといったところか。

「うわぁ、行き違いかー」

 世の中ままならないことは多い。

「とはいえここで探しに行ったら本末転倒だし、もう先に話を聞くしかないよね」

 遠い目をした俺はとりあえずアイリスさんが我に返るのを待つのだった。



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