二十三話「再会」
「そして、ヘイルと彼女は再会した。ヘイルにとっても私にとっても予想外と言う形で――」
聞こえてきたナレーションにアイリスさん何やってるのとツッコミを入れるべきか、俺は一瞬迷った。
「ヘイル様ぁ」
胸の上にはうれしそうな顔でしがみつく重りが一つ。
「どうするのヘイル? とりあえずパーティーに迎え入れてから追放する?」
「追放がどうとか以前にとりあえず上から退いてほしい、かな」
ここは宿の入り口である。人様の邪魔になるということもあるが、現在の光景を人に目撃されればされるほど社会的に俺は死ぬのではないだろうか。
「……大変ね、ヘイル」
「そう思うなら助けてくれても……と言うか、面白がってない、半分くらい?」
欠けられた声に同情以外の成分が混じっている気がして勘ぐってしまうが、俺は悪くないと思う。
「す、すみませんッ」
「ふぅ」
慌てて体の上から再会した少女が退いたことで、俺は何とか上半身を起こし。
「さてと、それじゃアイリスさん。改めて出かけよっか?」
「えっ」
何事もなかったかのようにアイリスさんの方を振り向けば隣で声が上がるが、こちらは困っている人を半分放り出してまでウサギ女勇者を追っているのだ。それに再会するなりいかんなくMっぽさを発揮している彼女とこれ以上一緒に居ては、俺がSと言う間違ったイメージを周囲に広げかねない。もちろん歪んでいるとはいえ好意を向ける相手をスルーするということには少し思うこともあるけれど。
「風評被害の傷はまだ浅いはずだから……」
「ヘイル」
こちらの胸中を慮ってか困惑気味にアイリスさんは俺の名を呼び。
「けどいいの? 今日の追放まだでしょ?」
「今日の追放って何?!」
訂正、こっちの気持ちなど何もわかっちゃいなかった。
「ヘイルさまの最後通告……」
そして、なぜか熱っぽい吐息を吐いてうっとりする変態少女が一人。
「これ、俺のせい?」
どうして再会したらこんな手遅れになっているのだ。
「ユウキ? ユウキが変なこと吹き込んだとか?」
そうだ、きっと、たぶん。自分に好意が向かなかったからってあることないこと吹き込んだに違いない。
「くそっ、おっぱい狂いめ!」
「流石にそれは冤罪だってユウキも言うと思うわよ」
微妙そうな表情でアイリスさんは何やら言ってくるが、そうでもしなければやりきれなかったのだ。
「あと、半端に聞いてたそっちの娘が誤解してユウキとあなたのホモカップル疑惑爆誕とか」
「やめて!」
なんて恐ろしいことを言い出しやがるのだ。
「風評被害は『ドS疑惑』だけでいっぱいいっぱいだから!」
フラグにもなりかねないし、そう言うのはよして欲しい。
「こうして憤慨したヘイルは『はぁ、こんな風評被害フラグだらけのところに居られるか。俺は情報収集を始めさせてもらうよ』と宿を――」
「アイリスさぁん?!」
勝手に社会的な死亡フラグを立てるとかさすがに酷いんじゃないだろうか。
「悪かったわ。さっき、ナレーションやってみたら思いのほか楽しくて、つい」
「『つい』で社会的な窮地に突き落とされる方としてはたまったもんじゃないんだけど」
半眼で応じつつ俺はおもむろに戸口へと向かう。いろいろ誤魔化して逃げるつもりだった。
「あ、ヘイル様、ひょっとして何かご用事でしたか? でしたらお詫びの代わりに……私にも手伝わせてください!」
まぁ、回り込まれた上に協力を申し出られたりして企みはあっさりと失敗に終わったのだが。
「ヘイル、あきらめて手伝って貰ったら? この娘の職業は騎乗者、騎乗動物や魔物の扱いに長けたスペシャリストでしょ? もうここにはあの子が居なかった場合、タンデムだとしても一緒に乗っけて貰えば」
「追い付ける可能性が高くなるって? それは、わかるけど……」
この状況で再会したこと事態が天の配剤と受け取ることだって出来はするのだ。俺だって相手が俺自身を慕うM少女で無ければ逃げようだなんて思わなかった。むしろ頭を下げてこちらから協力を求めたことだろう。
「割り切るしかない、のかな?」
そして、どうしても我慢出来なればいつもの様に追放すればいい、と。
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
目を閉じ、想像の中で一人の少女を追放する言葉を口にしてみる。
「ありがとうございます」
想像の少女は頬を染めながら何故か礼を言う。
「……駄目だ、追放がご褒美にしかなってない」
しかも相手は騎乗者、追放しても優れた機動力でブーメランのように戻ってくるのではないだろうか。
「まさにベストカップルね」
「やめてください、アイリスさん」
仕切りに頷く赤毛の少女に俺はマジのトーンで言った。
高機動力型ドM少女。(つよい)
どう考えても主人公の天敵です。ありがとうございました。




