二十二話「鉱山の町」
「ここまで来れば良いよね? 俺達もやることあるからさ」
鉱山の町にたどり着いた俺は連れてきた山賊を町の衛兵に引き渡した後、町の宿で変装士の少年をパーティーから追放した。いつもと比べればソフトすぎる最後通告だが、相手は影武者を強要され、詳細は伏せるが捕まって酷い目にあった少年なのだ。ここで追い打ちが出来る様な精神を俺は持ち合わせていない。
「じゃ、元気でね」
ただ、あのバカ勇者が死に振り回されている人がいると言うことは気の毒に思うものの、こちらも別の勇者の足取りを追いかけている身だ。薄情かも知れないが、出来ることと言えば山賊の奪った路銀を返すことと気遣い声をかけること、そして俺の固有技能の一つで密かな援護をしてやることだけだった。
「別れ行く者への餞別」
それが、俺のもつ固有スキルの一つ。効果はパーティーから追放した者へ新たな才能に目覚めさせたり、既に持ちうる能力を強力なモノへと変質させるというもの。効果を発揮させるかは俺が任意で決められ、固有技能について俺が他者に漏らすと固有技能自体が消滅するという制約はあるが、副作用の様なモノはない。うちのパーティーを追放されたメンバーが成功する理由の一つがこれであり。何処かの誰かをことあるごとに追放しようとしていた理由の一つもこの固有技能に由来した。同一人物に複数回効果を発揮出来るか、冗談でも効果は発動するのかと言った検証のためである。だから決して誰かを追放しないと体調がおかしくなる病を煩っている訳ではない。
「しかし、今頃ユウキは何してるかな」
「どうしたの、急に?」
「いや、丁度彼を送り出したところだからさ、ユウキの事も思い出しちゃって」
固有技能の内容に触れる真実を口にする訳にもいかず、訝しむアイリスさんに俺は苦笑しながら肩をすくめて見せた。
「そうね、私としてはあのおっぱい狂いよりも助けたハーピーの方が気になるのだけれど、ユウキの事だからあの子をダシにして胸の大きな女の子をナンパとかしてるんじゃないかしら?」
「あー、うん」
気持ちはわからないでもないと理解を見せるべきか、ちょっと辛辣じゃないかと言うべきか、迷った俺は曖昧な対応をすることしか出来ず。
「どちらにしても、ハーピーの子を保護してくれるところが見つかったりした上で戻ってくる気があるなら私達を追いかけてくるわよ。ここにあの勇者を追いかけて足を運ぶところまでは知ってるはずだし」
「そう、だね」
ユウキもあのハーピーの雛を見捨てられなかったから、パーティーを離れたはずなのだ。一緒にいられない理由がなくなれば、おそらくは。
「問題はこのパーティー自分で言うとちょっと複雑だけど、女性が私だけってところね」
「えーと、何でだろう。急にアイツが帰ってこないんじゃないかって気がしてきたんだけど」
心の中の冷静な部分が呟く、きっと今までの積み重ねだろうなと。
「否定はしないわ。むしろ瞼を閉じれば『鼻の下を伸ばしてこれ幸いと胸の大きな娘をナンパしまくってる光景』が容易に目に浮かぶくらいだもの」
「あはははは」
ユウキを信用してないのは俺だけではないらしい。
「まぁ、ユウキの事はこれぐらいにするとして、とりあえず鉱山の町には着いた訳だけど、たぶんあの子の目的はここで作られる業物だよね」
「そうね。だから、当たるとしたらドワーフ、腕の良い刀鍛冶や武器職人かしら」
「俺も同意見だよ」
武器の制作もモノによってはそれなりに日数がかかる。武器の完成を待ってまだこの町にいる可能性だってゼロではないと思うのだ。
「この町に居なくても次に向かった場所の手がかりぐらいは手にはいるかも知れないし」
「ここまで来た以上は動くしかないわね。宿の外に出たらあの子とバッタリなんてオチは幾ら何でもないでしょうけど」
「流石にそれは……って続けるとフラグを重ねてる感じだけど、無いでしょ、うん」
こちらはあのウサギ女勇者と再会するために気の毒な変装士の少年を中途半端なフォローしかせぬまま放り出しまでしたのだ。
「それならむしろここを出てユウキとバッタリの方が何倍もあり得るよ」
短期間でハーピーの引取先を見つけて預け、追いかけて来る。普通に考えればあり得ないが、バッタリ出くわした場合どちらがマシかと問われたなら、ユウキ一択だ。都合だけで考えるならウサギ女勇者と再会出来るのが最も良い結果だとしても。
「いずれにしても、ここでフラグ立てまくってロクでもない展開を引き当てたら目も当てられないしさ、宿の部屋は確保できてるわけだし、手分けして情報収集に出よう」
「別行動ね、わかったわ」
促せば首を縦に振ったアイリスさんは、ただしと続け。
「追放する人員が居ないからって情報収集後回しにして追放用のメンバーをスカウトしちゃ駄目よ」
「アイリスさん?!」
俺を一体何だとおもってるのと抗議したのは、言うまでもない。
「はぁ、出発前からなんでこんなに精神的に疲れてるんだろう」
重めのため息を吐き出して疲労も隠せず俺は宿のドアに手をかける。
「あ」
「え」
あれだけフラグっぽいことを言ったからだろうか。ドアを開けた向こうには丁度人がいて。
「へ、ヘイル様。よう、やく……漸くお会い出来ました、ヘイル様ぁ! どうか、どうか私も縛って下さいッ!」
「ちょ、わぁっ?!」
とんでもない事を言いつつ抱きついてきた少女によって俺は押し倒されたのだった。
M少女襲来。
敢えてフラグを二つ立て、どっちも選ばない。意表が突けてたら良いな。




