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二十一話「山賊のアジトにて」

「どういうこと?」

 バカ勇者が居ない。バカ勇者どころか山賊に聞き出した身体特徴の人物が横たわる者の中に居ない。

「あの山賊が嘘をついた?」

 あり得ない、不本意ながら俺への怯えようは演技とは思えなかった。

「自力で脱出を? それこそ、あり得ない」

 自称とはいえ勇者を名乗ったことを警戒し、山賊達は捕らえた人物を縄でぐるぐる巻きにしたと聞いている。俺の知るバカ勇者ならば、そんな状況に置かれたら間違いなく詰んで居たはずだった。

「その筈なのに、転がってるのはいかにも山賊って格好のオッサンばっかり。一人だけ縄でぐるぐる巻きにされてるけど、アレとは似ても似つかない容姿の……え?」

 ちょっと待て、何故別人がぐるぐる巻きにされているのだ。

「……これは話を聞く必要がありそうかな。ま、その前に」

 転がってる山賊達はあくまでアイリスさんの魔法によって眠らされただけだ。

「目を覚まされたら面倒だし、縛っておこう」

 後で質問しないといけないことが出てくるかも知れない。

「ついでに武装解除もして、っと」

 山賊達が起きない様に細心の注意を払い、護身用や多目的用と思われる刃物を奪って行く。

「アジトの最深部だもんなぁ。油断大敵と言うのはちょっと酷だよね」

 メインウエポンと言えそうな両手剣や斧などの大物が壁に立てかけられたり無造作に放り出してあるのを横目で見ると取り上げたナイフを使って簡易な罠を作り設置する。

「捕縛より罠作成の方が早くて楽ってのは、さすが罠師かなぁ」

 自分で自分の仕事っぷりに感心しながら、それでも手は止めず作業を続け。

「残ったのはこの人だけ、だね」

 アイリスさんの魔法の巻き添えを食らったと見えるぐるぐる巻きの人物の傍らで片膝をついた俺は閉じたままの目に手を伸ばす。

「まつげを触るとどんなに熟睡してる人でも起こせるって話、どこで聞いたんだったかな」

 豆知識の中には時々意外なところで役に立つモノが時々混じっている。

「うッ、ここ……は?」

 豆知識はしっかり仕事をしたらしい。まつげを触ると即座に目を開いたぐるぐる巻きの人は、周囲を見回そうとして縛られた山賊の一人を見つけ、固まった。

「一応、説明しておこうか。ここは山賊のアジト。何者かの襲撃を受けて山賊の殆どは捕縛されるか殺されるかして制圧されてるみたいだ」

「な、わぁっ?!」

 たぶん起きあけでぼーっとしてたのも有り、俺に気づいていなかったのだろう。至近から聞こえた声で我に返ると縛られた不自由な身体で身を起こそうとして失敗、ひっくり返り。

「それで君は誰? 山賊の仲間?」

 俺は尋ねた。山賊の仲間でないとは縛られていた事実から察していたが、敢えて質問の一つにする形で。

「違うッ! 私は勇者バ――あ」

 結果はあっさり現れた。囚われていた人物は自分から勇者を名乗ったのだから。例え、名前を口にしようとしたところで再び固まったとしても。

「バ……ね」

 一音目は件のバカ勇者の名前の一音目と一致する。だが、ぐるぐる巻きの人物、金髪の少年とバカ勇者は身体的特徴が殆ど一致しない。性別が男で目が二つ、鼻と口が一つずつなんてベタで割と当たり前に近い共通点があるだけであり。

「それで、その勇者バーショッコが何故山賊のアジトなんかに捕まっているのかな?」

「なッ、何故その名を?!」

 されど無関係とは思えずバカ勇者の名を出すと、自称勇者の少年は驚愕を顔に貼り付けて目を剥いた。

「一時とは言え、不愉快な思いしかしなかったけど同じ依頼を受けたこと有ってね」

 その時、いつもの台詞は完成していなかったものの俺はソレの態度や行動があまりにも酷過ぎて最終的に最後通告を突きつけ追放した。笠に着る権力を持つ相手だ、拙いかなととも思う部分もあったのだが、堪忍袋の緒が切れたというか、俺の忍耐にも限界はあったというか。その結果、滞在していた街を逃げる様に去るハメになったが、我慢していた場合被ったかも知れない被害を鑑みれば仕方ないと思う。

「まぁ、色々あったけど、ここの山賊がその勇者を捕まえたとか言っていたものだから、さ。で、あの勇者が捕まっているはずの場所に全然格好の違う君が捕まっていて、かつあの勇者の名前を名乗ろうとしていた様に見えたのだけど……」

 どういう事かなと尋ねれば、もう言い逃れは出来ないと観念したのか。

「私は変装士なんだ」

「変装士?! あの稀少職の?!」

 ボソッと漏らした言葉に今度は俺が驚く番だった。変装士とは肉親でもわからぬレベルでそっくりに他者へ変身出来る能力を持つ職業なのだが、職に就くのに多大なリスクがある上、能力の凶悪さ故にこの職に就くことを禁じる国も多く、その稀少さ故に名前だけが一人歩きしている職業でもある。俺自身目にするのは初めてであるし。

「人に化ける魔物、シェイプシアターやドッペルゲンガーの身体の一部を取り込み、適合して生き延びた上、かの魔物達の力を再現出来る者だけがその職業に就ける……んだっけ?」

「概ねその通りだ」

「あー、噂は正しかったと……それはそれとして、変装士の役目って言うとほぼ、貴人の影武者なんだよね。つまり――」

 彼はあのバカ勇者の影武者だったと言うことになる。おそらくはアイリスさんの魔法で眠らされなければバカ勇者の姿形だったのだろう。ただ、俺の言を変装士の少年は別の意味で受け取ったらしい。

「わかってしまうか。勇者バーショッコは死んだ。正確には殺された」

 口から出たのはとんでもない爆弾発言であり。

「私は勇者の死がバレぬ様身代わりとして旅をしていたが」

 変装士には幾つか欠点がある。変身能力で写し取れるのは外見と基本的な身体能力のみであり、固有技能や職業技能などの特殊能力まではコピー出来ないというのがその一つ。

「戦闘能力で本物に劣る私は山賊の襲撃で供とはぐれ――」

 最終的に捕まってしまったのだと少年は明かした。どことなく自嘲した様に。


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