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二十話「回想シーンでも追放にカウントしてほしい今日この頃」

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 先日、パーティーメンバーを追放した時のセリフを俺は思い出す。

「不本意で、遺憾で、嫌で、認めたくなくて、否定したくても、あのセリフはアレの言動が参考になってるんだよね」

 ソレは自身を勇者だと称した。その後、幾人かの勇者と交流を持ち、時にパーティーを組み、そして追放したり別れたりしたことで俺たちは最初に会ったソレのことを「権力を笠に着た高慢系バカ勇者」と呼ぶに至る。

「嫌な事件だったわね。人の話は聞かない。自分の言に責任を持たず都合次第で言ってることを変える」

「そうそう、『自分の言うことはすべて正しい』って従わない者は愚者扱いのくせに自分の言が元になった失敗の責任は取らず、お供が無能だからと言い訳するし。他人が失敗すると『お前がもっと使える奴ならこんな思いしなくてすむんだけど』とか『なんでこんな使えないやつお供にしてしまったのかねぇ』ってネチネチ嫌みも言ってたよね」

 あのおっぱい狂いのユウキがもしアレが爆乳美女だったとしてもノーサンキューでござるなと言い切るほどの人物である。

「勇者としての実力は知る限りで一番下、人間としても始末しておくべきだったんじゃって思うくらいのゴミ。一応、他の勇者でも『人質を取られた』とか、『だまされて眠り薬とか飲まされた』なんて理由で捕まる可能性はゼロじゃないと思うけど」

「アレならそれ以外の理由で捕まってもおかしくはないわよね」

「正直、捕まえたのがあれならさ、そのまま先代勇者にしちゃってくれたらいいのにとか思っちゃうんだけど」

 転がる山賊の話では身代金を取れるのではと言う淡い期待で今はまだ生かしているのだとか。

「もういっそのこと山賊が手を下しちゃったってことで先代にしちゃおうか」

 そう、危ない発言を俺がしてしまうくらいにソレはひどい奴だった。

「気持ちはわかるわ。私も勝手に『妻になりたがってる』ことにされてたし。その上で『貴族の身分は使えそうだから考えてやっても良い』的な言い回しをされた時、殺意を抑え込むのに苦労したモノ」

「うん。となるとさ、今回の件。捕まってるのがアレだとしたらさ、我慢の限界に来たお供の人が山賊に襲われたのを幸いにアレの始末を図ったとかじゃないかなぁ?」

 ほぼ一方的に山賊を蹂躙した俺だからこそ、そう思う。当時とお供の面々が変わっているかもしれないがアレと苦労されてる皆様の力量は把握してるが、この程度の山賊にアレだけならともかく、お供の人までついていて捕まるというのはちょっと考えづらいのだ。

「可能性は……あるわね」

「だよね。とはいえ、実は全く面識のない駆け出し勇者が未熟故に捕まったってこともないわけじゃないし」

 一応捕まえた自称勇者の人物特徴を聞く限り、たぶん捕まったのは俺的にそのまま処分してほしい人物NO.1なのだが。

「うん、考え方を変えよう。山賊を放置したら無辜の旅人が犠牲になるかもしれない。だから、アジトは潰さないといけないんだ」

「ヘイル、あなた……」

 モノ言いたげな目のアイリスさんに俺は無言で肩をすくめた。きっとそれで意思は通じたと思う。

「いくら追放したいからってアレを助けるのは趣味が悪いわよ?」

「違うわぁぁぁぁッ!」

 訂正、通じてなんていなかった。


 下品な笑い声が響く洞窟の壁に固定されたたいまつの炎が揺らめく。足元には見張りだった山賊が首に縄の跡をつけたまま転がる。

「そして、問題のアジトまで来ましたよ、っと」

 どこか遠くを見つつも、俺はやるべきことをやって山賊のアジトへの侵入を果たしていた。

「どうするの? このまま高威力の魔法で一思いにすべてを無に帰す?」

「あー、実に魅力的な提案ではあるんだけどね。せっかくここまで来たならため込んでるかもしれないお宝とかも確認したいし」

 臨時収入でもなければやっていられないってこともある。「そう言う訳だからアイリスさんは眠らせるとかマヒさせるような魔法をよろしく。俺も罠で無力化を図るから」

「わかったわ。ドジってヘイルまで寝ちゃうとかそう言うのはナシよ?」

「いつぞやのユウキと一緒にされるのは心外なんだけど」

 固有技能で魔法の効果を減退させられることに慢心して残念なことになったござるトリッパーと一緒にしないでほしい。

「今よ」

 アイリスさんの魔法が完成するまでそれほど時間はかからない。声に弾かれるように飛び込んだ俺は魔法の効きそびれた山賊の奇襲を警戒して周囲を見回し。

「え?」

 呆然と立ち尽くす。転がる魔法の犠牲者の中に、あのバカ勇者の姿がなかったのだから。



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