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十九話「勝手にSにしないで」

「良かったわね、ヘイル」

 これだけ捕まえたなら当分は追放する相手に困らないわよと言うアイリスさんに俺は頷くと、縛って転がした山賊の一人に歩み寄る。

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 これで今日のノルマは達成だ。

「……って、やらすなーッ!」

 そもそも捕まえただけでパーティーメンバーでも何でもないし。

「なかなかいいノリツッコミだったわよ?」

「『だったわよ』じゃなくてさ……」

 何だろう、コレ。ユウキが抜けたから弄られる標的がこっちに回ってきたのだろうか。

「ヘイル?」

「や、なんでもない。それより、捕まえた山賊だけど――」

 男女一組と甘く見ていたからか、襲ってきた山賊はあっさり返り討ちに出来た。生け捕りにした者も居るが、別にアイリスさんの言う追放要員を確保した訳じゃない。話を聞くために捕まえたのだ。

「拠点の場所とか仲間の有無とか聞いておく? 大掃除出来ればこの道も少しは安全になるだろうし、臨時収入にもなるとは思うけど」

 当然ながら、寄り道をすれば目的地に着くのが遅くなる。あのウサギ勇者の足取りを追っている俺達としては時間を浪費するのはよろしくない。だが、旅を続けるには路銀を何処かで稼ぐ必要もあった。

「悩ましいわね。山賊の拠点に捕まってる怪我人とかが居た場合、見捨てていける程非情じゃないもの」

「だよね。その辺りもコレが知ってるかもしれないからどっちにしても話は聞くつもりだけど」

 同意しつつ俺は足下に転がった山賊を見下ろし。

「ふふっ。こう言う時あなたは頼もしいわね」

「何故かな、褒められてる気がしない」

 漏れるアイリスさんの笑い声に半眼で応じたことは許して欲しい。

「そう? でも拷問のスペシャリストだってリサーブトでは評判だったわよ『ドSのヘイル』って」

「ちょっ?! 何それ?」

 あれか、やたら残念なオッサンを回りに迷惑をかけることがない様縛ってかぶれさせて放置とかしたからか。

「そう言う訳だからアンタ達、素直に質問に答えておいた方がいいわよ? 女の私じゃ口に出来ない様なえげつない事をされて自分から『殺してくれ』って言いたくなる様な目に遭いたくなければ」

「アイリスさん?!」

 たぶん、いやきっとそれは尋問が楽になる様にと言うアイリスさんなりの援護なのだとは思う。そして、きっと効果もあるのだろう。転がった山賊が俺を見る目におびえの色が見て取れたから。

「何か、釈然としない」

 丁度良い八つ当たり用の生き物なら縛られて転がっているが、ここで八つ当たりしようものならデマを肯定したも同然である。

「どうしよう……」

 尋問はしなければいけない。だが、出来れば誤解も払拭したくて俺は頭を悩ませる。

「アイリスさんに尋問を代わりにやって貰う……は、駄目だ」

 山賊との戦いは俺がメインで立ち回ったし、アイリスさんは女性だ。山賊達が舐めてかかる可能性がある。

「アイリスさんにお任せするとアレらの勘違い助長されそうだし」

 山賊達が引き渡した後すぐ処刑されるとしても受け取った衛兵とかの聞き取りで俺についての誤解をポロッと零してしまえばそこから俺の風評被害が広がってしまう。

「結局俺が尋問するしかないかぁ」

 大丈夫、俺は常識人で一般人の筈だから。自分に言い聞かせる様に胸中で呟くとしゃがみ込み。

「さてと、ちょっとお話ししようか?」

 出来るだけフレンドリーな表情と声で転がる山賊に話しかけた。

「ヒッ」

 だと言うのに怯えられたら、誰しもイラッとすると思うんだ。

「ああ、ヘイルが楽しそう。そうね、これからお楽しみの時間だものね」

「ちょっ、お楽しみって何?!」

 アイリスさん的には俺をドSに仕立て上げることで恐怖を煽って山賊が素直に話すことを期待して居るんだろうけれど、これじゃ誤解が加速する一方だ。

「大丈夫、素直に話してくれたら何もしないから」

「……つまり、素直に話さなかったらヤるのね」

「アイリスさぁぁぁん?!」

 何だ、これ。もうまるっきりコントじゃないですか、やだー。


「洞窟、ねぇ」

「話したろ? 話したからッ――」

 結果として、俺の風評被害を代償に山賊達の拠点の情報はあっさり手に入った。

「問題は、捕虜が居るって話と」

 ソイツが勇者を自称していると言うコト。

「コレにあの子が後れをとるとは思えないけれど」

 知りうる中で唯一あり得そうな勇者のことを思い出した俺は真顔でアイリスさんに提案した。

「スルーしない?」

 と。


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