十八話「人生に出会いと別れはつきものだけど」
「二人パーティーになってしまったわね」
野営中、たき火の炎がチラチラと揺れた。頭上を仰げば、月並みな表現になるが宝石箱をひっくり返したかの様な星空がある。
「まぁ、いつかどこかで別れるとは思ってたけどね。ユウキは異世界トリッパーな訳だし。ただ……」
元の世界に返るか、恋人ができて一緒になる為にか。後者の可能性は宝くじに一等当選するより低い確率であるものの、ユウキがこのパーティーを去るならそのどちらかだと思っていた。
「流石にアレは予想外だったかな」
「そうね。ただ、気持ちはわからないでもないのよね。あの子のハーピーの雛の可愛らしさ。自分の固有技能をここまで忌々しく思ったのは本当に久しぶりだし」
「あー」
アイリスさんの固有技能は強力であり俺たちは何度も助けられているが、魔物や召喚獣にとっては呪いや毒の様なモノだ。
「魔族とのクオーターだって言ってた子との一件だっけ」
男の娘で、アイリスさんとしては真剣にプロポーズすることも考えた相手ではあったのだが。
「ええ、ようやく見つけたと思ったのに――」
アプローチしようと近寄ったアイリスさんの前でその子は倒れた。かなりショックだったようで、アイリスさんは半日近くふさぎ込んで、たまに空気の読めないユウキでさえその件には触れなかった。アイリスさんにとって苦すぎる記憶だと思う。
「ただ、希望もあるの」
「え?」
だからこそ急に希望があると言い出したのが驚きであり。
「ほら、先日あなたの会った魔王様。あの人が一緒なら私の固有技能も中和されて無害になるし」
「え゛、まさか……あのウサギ勇者と魔王様との戦いをやめさせようと動いている俺についてきてくれたのは――」
「そう、交換条件で私の固有技能を中和してもらえたら、まだワンチャンスあるでしょ?」
こっちが勝手に約束したことだ。無償で協力してくれと言うのは虫が良いことだと理解していた、だが。
「ちょっとぐらいは思ってたんだけど。転生仲間のよしみで無償で協力してくれているんじゃないかって……」
「うん、ドンマイ♪」
音符マークでもついていそうな言葉と共に親指を立てたアイリスさんにイラッとしてしまった俺は心が狭いのだろうか。
「けど、少しは心が軽くなったでしょ? 私も下心あってついてきてるって判って」
「そ、それは否定しないけど……」
なんだろう、この釈然としない感じは。いや、ついてきてくれるというのに無償の善意を求めた俺が身勝手すぎるのか。
「けどさ、あの子と連絡付くの? すべて首尾よく事が運んでアイリスさんの固有技能が中和されるとしてもあの子が捕まえられなかったら意味がないんじゃ?」
「あ゛ッ」
引きつった顔で固まったアイリスさんを見れば、そこまで考えていなかったことは明白だった。
「……まぁ、なんだかんだで付き合ってもらってるし、和己さんがあの勇者の子と戦わなくてもよくなったら、アイリスさんの人探しも手伝うよ」
「ヘイル……あなた」
「まぁ、こっちの方が簡単だろうし、その点は申し訳ないぐらいだけどね」
勇者と魔王が戦わなくて良い方向に持っていける方法は存在しないかもしれないが、アイリスさんの思い人はちゃんと実在するのだから。
「そしてすべてがうまく行ったなら――」
俺は言うだろう、アイリスさんに。
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
そのいつものセリフを。ただ、今は心の中で未来のアイリスさんに言うにとどめ。
「お客さん、かぁ」
俺はおもむろに足元に張られたロープを踏んづけた。
「ぎゃぁぁぁッ!」
視界の端にあった岩が転がりだし岩の向こう側で悲鳴が上がる。
「山賊、かしらね?」
「そんなところかな。一応冒険者然とした格好してるつもりだけど、二人なら何とかなると見たとか」
周囲には野営の前にいくらか罠を仕掛けておいてある。
「ユウキが居ないし、久しぶりに全力でいけそうかな。アイリスさんはフォロー中心でお願い。黒こげにすると戦利品目減りしちゃうし、賞金かかってたとき人型の黒焦げじゃ賞金もらえないかもしれないから」
「仕方ないわね」
嘆息するアイリスさんによろしくと片手を上げると、俺は二つ目の罠を起動させるのだった。




