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十七話「ユウキと幼女カテゴリのナニカ」

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 そう言って色々酷かったオッサンを追放し、ギルドの訓練所で一方的な勝利を収めてから数日後。

「まぁ、こんな場所じゃあね」

 国境にある関所をくぐった俺たちは鉱山の町へと続く道を三人で歩いていた。当然ながら追放できるようなパーティーメンバーは皆無だ。

「しいて上げるならユウキだけど」

「やめるでござるよ、『追放できる奴居ないしユウキでも追放しとけ』って拙者を標的にする流れは」

 ちらりと見れば引きつった顔でござる系トリッパーは制止してきて。

「そうは言うけどさ。それだと俺が時々心の中で口にしてる『Sランクパーティから俺は今日もメンバーを追放する』が嘘になっちゃうし」

「嘘で良いでござるッ! そも、そんな理由で追放されかかる拙者の立場ッ!」

 こう、女性に失礼な言動をたびたびしていれば仕方ないと思うのだけど。

「仕方なくないでござるッ! そんなに追放したかったらその辺りの石の裏っ側についてるよく見かけるけど名前のわからない虫とかを追放とかでも良いでござるよね?」

「ユウキ……」

 よほど不本意だったのだろう。視界の中にあった人の頭の半分ほどの大きさの石を指さし聞いてくるユウキを前に俺はかぶりを振った。

「虫にパーティーに入れてって意思表示ができると思う? パーティーに入ってない相手は追放できないんだよ?」

「虫が問題とかじゃないでござるか?! と言うか、無駄に常識的な指摘ッ?!」

 それは仕方ない、俺は常識人なのだから。たとえユウキが愕然としようが照り付ける日差しが少しまぶしかろうが、組んだ腕に豊かな胸をのっけて隣を歩いていたアイリスさんが嘆息しようとも、それは揺るがない事実であり。

「話は聞かせて貰ったわ。つまり、ヘイルがこの後どこかで助けた虫が人の姿をとって恩返しにパーティーメンバーに加わって、後に追放されると」

「恩返し系のおとぎ話?!」

「だって、フラグっぽかったんだもの。そう言うことが起きる前フリ的な」

「やめて!」

 世界がファンタジーなせいで、絶対ないとは否定しきれないのだ。きっと、そんな不穏なやり取りがあったからだと思う。

「ぴぃぃぃ」

 泣きながら片翼でバシバシ地面をたたく半人半鳥の女の子と出会ってしまったのは。

「ハーピーだね」

「ハーピーね」

「ハーピーでござるな」

 見解は一致を得た。

「まだ幼いみたいだし、巣から落ちたとかかな」

 地面をたたかない方の翼が不自然に折れ曲がっているのだから、たぶんそんなところだろうと思う。

「とりあえず、私はできるだけ距離をとるわね」

「あ、うん」

 分類上魔物の一種である為、慌てて退くアイリスさんに俺は頷き。

「しかし、いかがしたものでござろうな。拙者幼女は専門外でござるし」

「「黙れ『おっぱい狂い』」」

 あまりにもひどい言い草に俺たちの声がハモるがきっと仕方ない。まぁ、非難されたござるトリッパーの言動は今に始まったモノではないし、言葉こそひどかったものの、ユウキの手は腰のポーチから回復薬の瓶を取り出している。

「ふ、拙者幼女は専門外。故にノータッチなどとする気はさらさらないでござるよ」

「誰に対しての弁解なのかしら」

「まぁ、いいんじゃない?」

 ハーピーの雛を手当てしようとしているのは明白なのだから。

「で、手当は問題ないとして……」

 問題はそのあとだ。

「野鳥の話だけど、人の臭いが付くと巣に戻されても親鳥が世話をしなくなるってのをどこかで聞いたんだよね」

 ハーピーにも同じ習性があるかはわからないが、周囲に親鳥の姿はなく。

「俺たちが保護するにしても、アイリスさんの固有技能が、ね」

 怪我をしている魔物相手を弱体化とかトドメを刺そうとしているとしか思えない。

「やれやれ」

 嘆息に続いて出たユウキの声を知覚したのは俺が打開策はないかと考えている中でのこと。

「だったら、答えは一つでござろう、ヘイル殿?」

 ハーピーの雛を抱えたままユウキは笑う。どこか苦いものを口にしたように引きつった顔で。

「アイリス殿ではこの子は任せられず、ヘイル殿には魔王との約束がある。消去法ではござらんか」

「ユウキ」

 何を言わんとしているかは、わかった。理解できてしまった。

「さっきのアレをお願いするでござるよ。なぁに、この子を預かってくれるところが見つかればすぐに引き返して追い付くでござる、故に――ここは拙者に任せて先」

「死亡フラグにすんなぁぁッ!」

 ユウキらしいといえばユウキらしくあるのだが。

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

「承知」

 俺の通告に指を二本立ててポーズをとると、ハーピーの雛を抱えたままユウキは踵を返した。それは、予想もしなかったユウキとの別れだった。



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