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十六話裏「SとMと(とある冒険者視点)」

「Sランクパーティーのメンバーが決闘をやるらしいぜ」

 そんなうわさ話を耳にした僕は、気が付けば見知らぬ相手であるにもかかわらず、本当ですかと尋ねていた。

「Sランクパーティかぁ」

 ここ城塞都市リサーブトは国境に近く、国境を越えれば鉱山で有名な町があるためSランクのパーティーはそれ程珍しくもない。鉱山の町には鍛冶技術に優れたドワーフが沢山住んでいて、彼らの作った武器を手に入れるためにこの地を経由する腕利きの冒険者は少なくないからだ。ただし、その場合、ここは経由地。だから僕は冒険者であるにもかかわらず、Sランクと言われる人達が戦う姿を目にする機会に恵まれずにいた。

「ギルドの訓練場……急がないと、見物するのに良い場所、全部埋まっちゃうかも知れない」

 そんな僕に降って湧いた、Sランクの実力をこの目に出来るかも知れないという情報。飛びついてしまったって仕方ないと思うんだ。逸る気持ちにせき立てられる様に冒険者ギルドまでの道を駆け。

「へッ、覚悟はいいか? あん?」

「はぁ」

 訓練場に辿り着くとおそらく審判兼見届け役っぽいギルドの人を挟んでため息をつく人とその人に一方的に絡んでるおじさんが居た。おじさんの方は悪い意味での有名人だから僕も知っている。

「崩壊のヴォゲット」

 Bランクに届きそうな戦闘能力を有しながら、性格と行動に問題があり、Bランクへの昇格試験を落ち続けている永遠のCランク冒険者。パーティーに加えるとこちらの作戦を無視して勝手に動き、作戦を崩壊させることからついた二つ名は崩壊。

「絡まれてる人の方がSランクなんだろうけど」

 僕の記憶にその人は居ない。となると、おそらく他の冒険者の様に優れた武器を求め最近立ち寄った人だと思う。

「わかってたことだけど掛けのオッズが圧倒的……これじゃ自分に賭けても殆ど儲からないや」

 自分に絡んでくるおじさんを全く相手にしておらず。

「両者、準備は良いか? 始めるぞ」

「うん」

 確認するギルド職員の人に応じてチラッと動いたかと思えば。

「なっ、ぐえっ?!」

 どこからか現れたロープが一瞬で崩壊のヴォゲットを絡め取り宙づりにしたのだ。

「さてと、どうしようか?」

「うぐっ、くそッ! 放せ、放しやがれッ!」

 首を傾げるSランクの人の視線に晒されながらおじさんがもがくが、実力差は明白だった。

「あれが、Sランクの実力」

 凄い、凄すぎる。語彙の貧困な僕はただ凄いと繰り返すことしか出来ず。

「はい、注目。ここに肌に着くとかぶれて痒くなる弱い毒液の入った瓶があります」

「「えっ?」」

 僕の声は周囲でほぼ同時にあがった声に混ざった。

「がああっ、痒いッ! やめろ、止めてくれェぇぇ!」

 そこから先は、何て言ったら良いんだろう。

「拷問?」

 縄で縛られ変な体勢をとらされたおじさんが悶え暴れる。防具の隙間からはかぶれて痒くなる毒が流し込まれ見ているだけでこっちが痒くなってくる。

「何て恐ろしい真似を」

「けどよ、殺しちゃ拙いからあれでも手を抜いてるらしいぜ」

「嘘だろ?!」

 しかも、近くにいた人達の話が本当なら、あれはまだ序の口の様であり。

「Sランクパーティーの一員ではあるんだろうさ、ただしSランクのSはドSのSだ」

「だな」

 顔を引きつらせた近くの人の言葉に隣の人が頷く中、僕は聞いてしまった。

「良いなぁ……ヘイル様、私もヘイル様に縛られたいです」

 何かトんでもない内容の女の子の声を。

「羨ましいな……どうしたら縛っていただけるでしょう。ああ、あの蔑む目。あの目で――」

 女の子の独言っぽいものは続き、僕はまた一つ世界の広さを知った。

「何故だ。何故あんな可愛い娘が、あんなアブノーマルな発言を」

「と言うか、あいつのどこがいいんだ? Sか? Sになれば俺もモテるのか?!」

 隣の名も知らない二人は世界の不条理さを嘆いてるみたいだけれど、気持ちはわかる。僕は立ち位置の関係でチラッと顔が見えただけだったけど、顔立ちのととのった凄く可愛い女の子だったのだ。

「ロープ……って、何を考えてるんだ、僕。駄目だ、こんなのじゃ」

 ちらりと浮かんでしまった邪な考えを頭を振って払うと頭を冷やすべく外に向かって歩き出したのだった。


短めでごめんなさい。


前回の話は今回の話がやりたくてテンプレにしたとかしなかったとか。


お待たせしましたMの子登場です。


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