十六話「城塞都市リサーブト、テンプレ的には良く居るソレ」
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
口程にもないとはまさにこのことを言うのだろうか。城塞都市リサーブトの冒険者ギルドにやって来た俺達へ一緒に組まねぇかと声をかけてきたオッサンが居た。そう、今まさに追い出しにかかっている相手だ。
「おいおい、使えないとはご挨拶じゃねぇか。危険を顧みず先陣を切り、魔物共をばったばったと切り倒した俺のどこが使えねぇってんだ?」
「まず、一人称が俺と被ってるところ」
「ちょっと待てぇ!」
俺の至極常識的な回答に叫んだこめかみ辺りの血管が切れそうになってるオッサンは正直言って足手まとい以外の何者でもなかった。
「一人称被りも問題だけどね、他にも色々とあるよ?」
無策で敵のまっただ中にツッコむわ、やむえずカバーに入ったユウキが斬り倒した魔物を自分が倒したと主張して功績を横取りしようとするわ、アイリスさんを時折見てはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべているわとあまりに酷すぎて遠回しの嫌がらせさえ疑ったものだ。
「ともあれ、馬鹿は要らないんで、お引き取りを」
「ふざけんな!」
「生憎ふざけてるつもりは丸でなくてね。そもそもウチ、Sランクパーティーの筈なんだけど……」
激昂するオッサンのランクはC。問題行動のオンパレードを思い出すと、それでもよくCランクに認定されてるなと思うレベルでもある。
「まぁ、こんな使えない奴入れた方も悪いって言われそうでもあるんだけどね」
では何故パーティーに入れているかというと、理由がある。
「ヘイル殿は『誰か追放しないと体調崩しちゃう病』でござる故、追放しても大丈夫そうなゴミを確保したのでござろう?」
なんてユウキの戯言はユウキ諸共窓の外に放り投げるとして、このオッサンはアイリスさんの気をひくためだろうか、こう嘯いていたのだ。
「俺は勇者様の共をしたこともあるんだぞ」
と。
「あの子の事を少しは聞けるかと期待したけど、複数の冒険者を雇う依頼でたまたま一緒だっただけだったと言う件」
ウサギ勇者は路銀の足しにその依頼を受けたのだろうが、あの子だって思うまい。ただ一度依頼を共に受ける形になっただけのゴミが話を誇張して自分を売り込むネタにしているだなんて。
「これ以上被害者が出ても拙いし、ギルドには虚偽を吹聴していたって報告しておかないと」
報告したらしたで先方も知ってますと答えてくるかも知れないけれど。良い噂は聞かないが、だからといって処罰するには証拠がないとかそんな感じのテンプレ状況で持て余していたなんてことも十分ありそうだし。
「この世界、テンプレ展開結構あるからなぁ」
いや、実は良くあることだからテンプレ展開とか呼ばれる様になったのかも知れない。
「まぁいいや。不満だって言うならギルドの訓練場で模擬戦でもして白黒つけよっか。相手は俺で……そうだね、こっちは武器は使わない。それでも余裕でこっちが勝つと思うけど」
「てめぇッ」
テンプレ展開ならテンプレで決着すべきだ。情報に期待して役立たずを拾っちゃった件についてはあの子が元気そうだったと聞けたことで良しとしておく。
「中衛のくせに良い度胸じゃねぇか」
「さて、と」
回りのよく見えないオッサンにとって罠を仕掛け、それを駆使して敵を屠る俺は天敵になる訳だが、残念すぎるこのオッサンは頭に血が上っているのか、馬鹿だからか気づいた様子もなく。
「それにしても謎なのはCランクでSランクに挑んで勝ちがありそうと思ってるとこだけど」
「はン、何を言ってやがるッ! てめぇがSランクの看板ぶら下げられてるのはあのござる野郎とアイリスちゃんのお陰だろうが」
「え゛」
不意に口に出した疑問はあっさり解決を見た。このオッサンにとって俺はおまけ扱いだったらしい。まぁ、加入してからは直接攻撃ではなく罠を使っての支援しか見せてなかったので、視野の狭いコイツのことだ、魔物が俺の罠に足を取られたりしたのもたまたま間抜けな魔物が足下の石にでも躓いて転んだとか勘違いしているのかもしれない。
「どこまで残念を貫けばこうなるのやら」
良く今まで生きてこられたなぁと、普通に呆れる。
「ああ、そうそう。誰も見てないと白黒つける意味もないからギルドについたら立会人つけて貰うし、見物も許可するつもりだけど良いよね」
「はッ、上等だ。コバンザメ野郎の化けの皮をはいでやるぜ」
「よし」
一応言質もとった。なら、ここまでの鬱憤も全力で晴らさせて貰おう。最初は何の罠が良いだろうか。




