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十四話「元悪役令嬢 追放するだけの簡単なお仕事」

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 俺がボロボロの革鎧を身につけた少女へ最後通告を突きつけたのは、とある街を出る直前の事だった。

「何ですって?」

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 こちらを睨み付けながら聞き返す少女に全く同じ事場を繰り返したのは、馬鹿にしたからじゃなく、お約束あの魔王様の精神を見倣っているからだ。

「っ、聞き返した訳じゃありませんわ! このメルマリーヴ公爵家の令嬢であるわたく――」

「元でしょ、元」

 今度は完全に馬鹿にしながら俺は肩をすくめる。

「それでリサーブト向こうにある国からも追い出されたからこんな所にいるんでしょうに」

 行く当てもない彼女をたまたま拾ったのが俺達だ。もっとも、拾って身の上を聞いた時に苦いモノでも呑み込んだ様な顔を彼女を覗く俺達三人はお互いにスル羽目になったのだけれど。

「婚約解消、身分剥奪、国外追放」

 まぁ、死刑とか修道院送りとかも俺が読んだことのあるウェブ小説とかにはあった気がするので、死刑と比べれば有情な気もするものの、この少女、隣国の王子にして元婚約者を横からかっさらおうとした下位貴族の令嬢に度の過ぎた嫌がらせをした結果だという悪役令嬢としてはベタベタにあるテンプレ的断罪をされて追放先で俺達と出会ったらしい、もっとも、度の過ぎた嫌がらせをした結果というのは怪しい男が情報源なのだが。

「うん、あれは酷かった」

 どのぐらい怪しいかというと、あの娘を散々痛めつけた上で適当なところで捨てて欲しいとか依頼してくるぐらいの怪しさだ。それだけならまだしも、仮面舞踏会にでも参加するつもりなのかとツッコミたくなるようなマスクで顔の上半分を隠して依頼してくるとか、一周回ってわざとやっているのかを疑いたくなる様なレベルであった。

「とは言え、報酬は前金だけでも破格だったしなぁ」

 だからちゃんとお仕事をしましたとも。まず三人がかりのスパルタで全力特訓。一冒険者として自分の身が護れて依頼を受けて生計を立てていける様になるところまで仕立て上げた。どれくらいスパルタかというと拾ったばかりの頃に買い与えた革の鎧を何着か潰し、今着ているモノさえ結構新しいモノであるにも関わらずボロボロにするぐらいの厳しい特訓であった。つまり、散々痛めつけた訳である。

 後は今まさにしている追放を終わらせてしまえばお仕事は完遂であり、その後目の前の娘が元婚約者とかにざまぁしようとも俺達には何の関係もない。

「こう、公私は別にしたビジネスライクっぷりは自画自賛だけど流石プロだって気もするよね」

 まぁ、怪しい男から依頼を受けた事もそれにかこつけて君を鍛えちゃうよって事もこの少女にはきっちり教えてある訳だけど。

「聞いていまして? わたくしを侮辱するのも――」

 だからこそ、彼女は外にも聞こえる様な大声で喚き散らし、俺を非難する演技をしてくれている。頭の良い子だった。度の過ぎた嫌がらせで追放されたのが嘘と確信出来る程に。

「この街を出ると城塞都市リサーブトまで街と呼べる場所はないし、その先はお前の故国だ」

 リサーブトは国境に最寄りの都市でもあり、堅牢な城塞は少女の故国からの侵攻に備えて作られたモノでもある。

「わかるよね? 追放された奴を連れて行けないことぐらい。それが使える奴ならまだしもさぁ」

「くぅっ、度重なる侮辱ッ! 良いですわ、あなた方などこちらこそ願い下げですわッ!」

 売り言葉に買い言葉、少女は窓からの死角になるドアの前まで不機嫌そうに靴を鳴らし歩み寄ると、くるりと向きを変え、無言で深々と頭を下げた。あの怪しい男の耳があるかも知れないと考えての精一杯の感謝の気持ちだったのだろう。

「ふぅ、これでお仕事は完了、と。しっかし、本当めんどくさい奴だったわ」

 俺もまた誰かに聞かれている可能性を踏まえ清々したという態で独言すると胸中で少女の無事を祈った。


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