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百三十話「アイリスさんのやり方」


「こう、一言で言うなら『割とお手上げ』かなぁ?」


 目は血走り、断罪という言葉か意味不明な譫言を繰り返すだけ。


「やばい薬とか使ってないよね?」


 捕縛知った時はもう少し理性がある感じだったけれど、投与されてた薬物が切れたんだろうか。


「アイリスさ――」


 こんな相手からどうやって情報を得るのかと尋ねようとすれば、アイリスさんはアイリスさんで何か考えていたようであり。


「ヘイル、ふと思ったんだけどあの娘(エリーシア)の持ってたネームプレートのこと話してみたらどうかしら?」

「ネームプレート? あぁ、あの」

「そう。最初は尋問に使えそうなモノを考えていて思い出したのだけど、あれってこの国では作ってはいけない品よね? 所持してることが問題になる前にどうすれば良いかとか相談しておいた方が良いと思うのよ」


 言われてみればもっとも話ではあった。問題があるとすれば、枢機卿が相談を持ちかけるに足る人物かという点だけれど。


「ヘイルの懸念も分からないでもないけれど、おそらく大丈夫よ。情報収集してたのは私も同じだし、ジャック枢機卿はあの娘(エリーシア)を送りつけてきた神官とはどちらかというと対立する立ち位置の人の様だから」

「そうなんだ、けど」


 襲撃者が見える位置にいる俺達が今、ジャック枢機卿と会話するわけにはいかない。


「後の話だね」

「そうね。尋問が先よね」


 となると、アイリスさんはどうやって尋問するんだという疑問が湧くわけだが。


「ヘイルなら、やっぱり最初は縛るわよね?」

「何でそこで『やっぱり』になるのか聞いてもいい? いや、何か聞いたらすっごく不本意な答えが返ってきそうな気がする」


 ジレンマとでも言おうか、今までが今までだからアイリスさんの口から聞きたくない言葉が飛び出してくる予感がヒシヒシとして。


「ヘイルが聞きたくないなら、それで良いわ。どちらでも構わないし、そんなことよりすべき事があるものね」


 話はこれまでと言う態でアイリスさんが魔法の詠唱を始める。


「魔法、かぁ」


 魔法職のアイリスさんなのだから、現状を打破する手段として魔法を選んだことに驚きはない。ただ気になるのは、この詠唱を俺は何処かで聞いた覚えがあるのだ。こう、その時の相手はユウキだった様な気もする。


「まさか、いや、俺の気のせいの筈」


 記憶違いであることを密かに願った、だってあれは、そう、性転換魔法なのだから。


「断……罪?」


 魔法が完成した直後、襲撃者の声が幾らか高い声にかわり、言葉が途切れた。


「いや、まぁ、突然性別を変えられれば、無理もないか」


 だが、たぶん、きっと、おそらく、まだこれは始まりに過ぎない。


「さてと、驚いたかしら? これから幾つか質問をさせて貰うわ。答えるか答えないかは自由だけど、答えない場合、男に戻れる保証はないからそのつもりでね?」

「うわあ」


 性別が人質とはいきなりえぐいことをする。もっとも、アイリスさんの性転換魔法には効果時間が存在するので、戻れる保証がないというのはブラフだろうけれど。


「そして、この場には他に男性もいる。この意味が分かるかしら?」

「えっ」


 ちょっと待って、アイリスさん。


「その男性って俺の事じゃないよね」


 と聞けたらどれだけ良かっただろうか。流石に驚きの声は漏らしてしまったが、それ以上を続けたらアイリスさんの尋問が台無しになることは俺にも分かる。アイリスさんは俺の存在をブラフに使うと前もって言っていた。そして、アイリスさんに尋問を任せてしまったという手前もある。ここで保身をはかってぶち壊すのは無責任すぎる。だから、俺はただ黙ってアイリスさんの言葉の続きを待つことしか出来ず。


「話さなければペナルティを課す。話したなら、すぐに男に戻してあげても良いわ。簡単でしょ?」


 再び口を開いたアイリスさんに襲撃者がどう答えるのか。俺の視線は気づけばつい、そちらを見ていた。


ま さ か の 性転換。


どうなる、襲撃者?

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