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百二十九話「適材適所」


「まずは、襲撃者の尋問から、かぁ」


 妥当な所だった。


「今この時も潜んだ刺客が襲うタイミングを見計らっていたっておかしくないもんな」


 行方不明の使用人も気になるが、襲撃はもう起こらないというメドの様なモノが立たなければ、ジャック枢機卿の側を離れて捜索に行くことも出来ない。


「そう言って貰えるとありがたい。このままではわしも無実を証明する為に動くことすらかなわぬからな」

「あの襲撃者を操った黒幕が居るとするなら、その辺りも織り込んで居たということかしら」

「どうだろうね? 相手が謀略の魔王だとするなら、織り込み済みでも不思議はない気がするけれど……」


 謀略の魔王が裏に居るというのはあくまで俺達の推測だ。血迷った馬鹿の独断で今回の襲撃が起こった可能性もある。他者には理解出来ない動機で何らかの凶行に及ぶ人間は残念なことに前世だけでなく此方の世界にも多数居たし、居る。


「偏執狂だっけ、自分の妄想を現実だと思い込んで色々やらかすヤツ。今回の件が枢機卿を裏切り者だと妄想しての暴走だったとかなら、アイツを牢屋にぶち込んでおけば一件落着なんだけど」


 ジャック枢機卿と予期せず接触出来たと言う幸運を鑑みると、こちらに都合の良い展開が二度続くとは思えない。


「ああだこうだとここで考えても、情報が少なすぎて埒があかないわ。尋問で情報を得ましょ」

「あー、うん。やっぱそうだよね。ところで、あの襲撃者の身元って判ったのかな? ずっと連れてるわけにもいかなかったし、屋敷の警備の人に引き渡したけど」


 枢機卿と話をする必要がある為、引き渡した警備の人について行くと言う選択肢もなく、俺は今こうしてアイリスさんや枢機卿と会話してるわけだが、常識的に考えれば行われて居るであろう襲撃者への身元調査が気になりだしていた。


「ならば尋問のこともある、出向くとするか。もっともわしの顔を見れば興奮して話にならんやもしれん。わしは声は聞こえども姿の見えぬ場所に控えさせて貰うが――」

「となると、誰が尋問するか、かぁ」


 消去法でこの場に来ている俺を含むパーティーメンバーの誰かと言うことになるのだが、俺が尋問した場合、また変なレッテルを貼られてしまうのではないかという懸念がある。


「とは言えマイに任せるのもなぁ」


 M方面とはいえ、変態さんに尋問を任せるとか嫌な予感しかせず。


「アイリスさん、お願いしてもいいかな?」


 俺が聞くと、仕方ないわねと苦笑しつつも快諾してくれて。


「それじゃ、ヘイルにはあの襲撃者が質問に答えない時に拷問する係を担当して貰うわね?」

「ちょっと待って?!」


 なに それ。


「拷問をする係って何?」

「適材適所でしょ? 罠と拷問具って親戚みたいな所有るし」

「いやいやいやいやいや、親戚って……それ、罠師と拷問吏も親戚みたいなモノって言ってるようなモノだよね?」


 全力で一緒にされたくない俺が居るんですが。


「罠師と拷問吏が紙一重みたいな言い方をしたら……」


 マイがどんな反応を見せるか。


「分かりました。では、私がヘイル様に拷問される係で」


 とか、言い出して俺が全力でツッコミ入れるハメになっても驚かない。


「ああ、嫌ね大丈夫よ。あの襲撃者にプレッシャーを与える為に、対外的にそう言う役割って装うだけだから。ヘイルの頼みだけど、質問者が私だとヘイルが質問者の場合と比べて、こう、威圧感に乏しい気がするのよ」

「あー、分かるような分からないような」


 ドSって言われてないしとでも続こうモノなら即座に分からないと意見を変えるつもりだが、アイリスさんの外見は強面どころか、何処かの貴族のお嬢様といったものだ。


「けどさ、アイリスさんと俺のその辺りの差って、魔法で埋めたりとか出来ない? 幻術とか精神操作とか何らかの方法でさ」

「不可能ではないけれど……そもそもそれなら、脅すよりも魅了した方が手っ取り早いのよね」


「魅了、ねぇ」


 魔法とか抜きでもアイリスさんは美人だし、効果を疑うつもりはない。


「そろそろつくぞ」


 俺達のコントもどきなやりとりが聞くに堪えなかったのか、単に事実を知らせただけか口を開いたジャック枢機卿が俺達に告げ。


「断罪っ、断罪せねば――」


 廊下の向こうから聞こえてきたのは喚き散らす男の声。あの襲撃者の声だった。


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