十二話「被追放者が居なければ」
「魔王様が転生者となるとあなたの気持ちはわかるけど、少し早まったんじゃない?」
それは魔王と話をした翌日、宿の一室で三人揃って朝食をとっていた時のことだった。
「拙者もアイリス殿と同感でござるな」
「「ユウキが前世の名で呼ばなかった?!」」
アイリスさんの指摘に追従したござるトリッパーの言葉に俺達の声がハモった。
「声を揃えて驚くところでござるか?! そも、問題なのはこちらではなくヘイ……智樹殿のかわした約束の方でござろう」
「わざわざ前世の方の名前に言い直さなくても」
俺達のリアクションが気に触ったのか、ユウキなりに気を遣ってくれた結果なのかはわからないが、言っていることに間違いはなく。
「それはそれとして軽率だったって言うのは認めるし、この件について二人に協力は求めない。自分でまいた種だし」
勝手に結んだ約束の責任を二人に被らせる気はなかった。
「では、ここから別行動でござるか」
「うーん、最近追放役ご無沙汰なのよね。練習した方が良いかしら?」
「切り替え、早ッ!」
例え即座に二人がふざけ始めたとしても。
「「冗談はさておき」」
重なる言葉。
「どうするつもりでござるか? 何か考えが?」
二人分の視線に貫かれる俺に向けて口を開いたのは、ユウキの方が若干早かった。
「一応今考えてるのは、ウサギの人達に接触してあちらからも話を聞いてみたらどうかとかだけど」
「確かに今のところ魔王側の話しか聞いていないものね」
そう、同じ経緯でも立ち位置によってとらえ方も違うかもしれないし、別の切り口から見ることで解決の糸口が見つかったらなと思ったのだ、ただ。
「あのモフモフ種族、言葉を喋れないんでござるよね」
「うん」
それが一番の問題点。一応文字の書ける者も存在するのでその場合は筆談が可能だ。以前パーティーにいたウサギ勇者とのやりとりにおける最後の砦がこの筆談だった。
「勇者は文字をかけたけれど」
「ファンタジー世界の識字率、何というかお察しよね」
「ござるなぁ」
俺達三人の目が遠くなる。
「その辺鑑みると確実なのはあの勇者の子だよね」
文字が書けるのは確定で面識もある。
「問題があるとすれば追放した手前会うのがむっちゃ気まずいことでござるな」
もっとも直後にしれっとユウキが言ってのけたことこそ俺の頭を悩ませるのだけど。
「考えたくなかった事を空気読まずにあっさり言うわねアンタ」
「ふ、このパーティー一の汚れ役としては当然でござる」
「じゃあ、いっそのこと追放しよっか、汚点抹消と言うことで」
呆れるアイリスさんにしたドヤ顔がイラッとしたからではない、無いと思いたい。
「いやいやいやいや、このタイミングで追放?!」
「ウチのパーティーメンバーの追放頻度を考えればおかしなところは何もないわよ?」
「おかしいでござるから! 拙者、元の世界に戻る手がかりも掴んでいなければ、この世界に骨を埋めても構わないと思える程の爆乳美女と出会ってラブラブになったりもしていないでござるぅぅぅぅッ!」
ギョッとしたユウキはわりとマジな顔をしたアイリスさんが首を傾げれば拳を握って絶叫する。うん、今日もぶれないわおっぱい狂い。
「さてと、じゃ……もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
「ちょっ」
「ブレなさに敬意を表していつもの台詞を口にしてみたが、不満らしい」
いったいこれ以上どうしろというのだろう。
「『どうしろと言うのだろう』じゃないでござる! 何、ナレーションっぽいこと言ってるでござる!」
「昨日の魔王様、お約束とか大切にする人だったから。見倣ったというか、リスペクト?」
あの人は俺達より遙かに前に生まれた大先輩だ。
「成る程、私達の数倍は生きてるものね」
納得した様子でアイリスさんも合わせてくれる。
「そもそもさ、このござるトリッパー、俺の気のせいで無ければ切腹級の失礼な言をあのウサギ勇者さんにしてた気がしてさ」
「な」
「あー、たしかに。なら、仕方ないわね」
こうして俺達がユウキを玩具にして暫く遊んだのもある意味正義の為である。
「この街も良い街だったけど、一箇所に留まりすぎるとパーティーに加えたくなる様な人も減ってくるし」
別に俺への好意とドMに目覚めてしまった人がこの街に居るからそろそろ逃げ出さなければなんて理由ではない。
「そうね。けど、追放した相手を追いかけるなんて展開、今まで無かったわよね」
「レアケースなのは確かかも、さてと。それじゃ、俺はギルドに行ってくるね。この街を立つって言ってこないと」
街唯一のSランクパーティーなのだ。事前に話を通さなければ方々に迷惑がかかる。
「諸々鑑みると出発は数週間後、かな」
思ったよりも短い滞在ではあるが、良い悪い含め色々な出会いがあった。後ろ髪を引かれる気も少しはするけれど。
「新たな目的地、まだ見ぬ男の娘」
「まってるでござるよまだ見ぬ爆乳美女。拙者、超乳も大丈夫でござるから――」
自分の目的を前面に押し出す演技までして二人は俺に付き合ってくれるのだ。これで俺が尻込みする訳にはいかない。
「城塞都市、リサーブトへ」
俺は口にする。あのウサギ勇者が居るであろう地の名を。
と言う訳で、主人公パーティー滞在地を変更する模様。
そこにはどんな出会いと追放が待つのか。
アイリスさんの婿は見つかるのか?




