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百二十三話「色々話を聞きまして、ただ」


「宝物とか刀剣とか書物に美術品、何かに執着する人物では無いって事で良いかな」


 女好き説が会った情報屋三人の内二人の口から出てきたが、裏側を知っているので間違った情報と断じた上で俺は唸る。


「モノで釣ってとか女性で釣ってどうのって方向で情報は引き出せそうにない感じかぁ」


 超級神官のコピーのことや行方不明の使用人のことへ正直に言及して、気になるので調べてみたいからと協力を求めるのも一つの手だが。


「もうちょっとジャック・チャーストン枢機卿の人となりが分かる情報が集まればこっちも出方を決めやすいんだけど」


 広い王都だ、情報屋はもっと居るだろうが、王都に来て間もない俺が居場所を掴めたのは数名、そのうち比較的まともだと思った三名はもう回ってしまっていた。それに、ただの情報集めのはずなのに先程は邪魔が入った。このまま次の情報屋を捜し始めれば、またああ言う輩に絡まれる恐れもある。


「絡まれそうだから人の集まる場所で情報収集は避けたのに、あれだしなぁ」


 悩み所だった。把握している情報屋は回り終えたのだから切り上げるか、それとも情報屋を捜すか、開き直って冒険者の斡旋所や酒場に顔を出してみるか。


「道を歩けばトラブルに当たってる気もするし、ここは切り上げて宿に行くかな」


 宿に向かったら向かったで別のトラブルが待ち受けていそうな気もしたが、きっと気のせいだろう。


「ここからは人通りの多い道を行こう」


 人気のない通りを歩いていたから挑まれたのなら、それで大丈夫なはずだ。


「そう思っていた時期が俺にもありました」


 人の多い、大きな通りに出た俺が目にしたのは、一台の馬車。扉に刻まれた紋章は、丁度情報屋から教わったばかりであるジャック・チャーストン枢機卿のソレ。もっとも、ただ馬車を見かけただけなら縁があるなで終わっても良かった。


「おい、なにやってんだ、降りろ!」

「危ねーぞ!」


 問題はギャラリーの声を聞く俺にも馬車の屋根に人間がへばりついて居るように見えることであり。


「よく分からないけど、むしろこれは」


 チャンスかも知れない。あれをどうにか出来れば、とっかかりにはなるだろう。


「目立つことにはなるけど、仕方ないかな」


 罠を利用して射出されれば、おそらくだが馬車に追いつくことは可能だ。


「よっ」


 召喚した罠によって俺の身体は空高く運ばれ。


「は?」

「なん……だ、あれ?」


 人の脚力ではあり得ない大ジャンプに驚く人々の顔が幾つか視界に入り。


「ここっ!」


 建物の壁に召喚した次の罠、ロープで獲物を吊り上げる罠を使って軌道を修正する。


「何をしてるのかは、しらないけどっ」


 屋根の人間はそのままにしておけない。


「これでっ!」

「ま、うわああっ?!」


 馬車の屋根に着地するなり喚んで作動させた罠が、屋根の上の先客を剥ぎ取り。


「大丈夫? 上にくっついてた人は下車願ったけど……って、この馬車御者が」


 さっき引っぺがした人物に突き落とされでもしたのか、御者の席には誰もおらず。


「っ、ゆっくりだ、もっとゆっくり」


 屋根から御者席に移った俺はなびく手綱を捕まえて馬を宥める。


「ふぅ、マイならもっと上手くやれただろうけど」


 暫く宥めていたが何とか馬を落ち着かせ、馬車を減速させ止めるに至って安堵の息を吐き。


「ヘイル様」

「あ、マイ。丁度良かった」


 噂をすれば何とかってヤツだろうか。ギャラリーの中から現れたマイに俺は手綱を手渡す。


「ヘイル様?」

「その馬達を見てて貰える? 俺は馬車の中を確認しないといけないから」


 屋根から引っぺがした人物の確認と確保もあるが、紋章が紋章なだけに最優先すべきが馬車の中なのは仕方なく。


「大丈夫ですか?」


 紋章付きの馬車だ。中の人は貴人や枢機卿本人の可能性もある。ドアをノックすると先程よりも丁寧に尋ね。


「大事ない」

「あ」


 ドアを開けて出て来たのは、情報屋で聞いた容姿そのままの人。


「ジャック・チャーストン枢機卿」

「いかにも」


 俺が口にし名に頷いたその人物は、救ってくれたこと感謝すると俺に頭を下げるのだった。



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