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百二十話「帰還したと思いきや」

「登りは苦労したのが本当に嘘の様だったよなぁ」


 見えて来た城壁を眺めつつ、俺は下山の様子を振り返る。アイリスさんが落下の速度とダメージを軽減する魔法をみんなにかけて飛び降りるだけ。俺は途中で魔法の効果が切れることも考慮していつでも捕縛系の罠を召喚できるように身構えつつだったが、完全に杞憂に終わった。


「戻って報告したら、また情報を集めないといけないわね」

「まぁ、そうなるかな。今回の件みたいに光神教会の方が何か言ってくるかもしれないけど」


 アイリスさんの言葉に肩をすくめてそんなことを言ったからだろうか。


「あれぇ?」

「どうしたの、ヘイル?」

「いや、城壁の入り口にさ……みおぼえある ひと が たってる き が するんですが」


 まだ遠いが、服装はもうかなり見慣れたモノであり、身体のパーツの一部が異常に大きい。


「……良かったわね、ヘイル。超級神官っぽいわよ」

「どの辺が良いのか尋ねるべきか、それともデジャヴを感じるんだけどって訴えるべきかな?」


 エリーシアと同じ神官服を身に纏ったその人は、たぶん出発前に俺がパーティーから追放した人だと思う。


「なんでまた……ってのは愚問かぁ。派閥争い的なモノでウチのパーティーに自分の息のかかった人員を押し込みたいとしたのにその当人が突っぱねられて戻ってきたとしたら――」


 たぶん、もう一度行ってこいとか言われでもしたのだろう。


「それでどうするの? また追放する? それともハーレムルート突入かしら?」

「何故よりによって選択肢がその二つ?!」


 前者は一度パーティーに入れないと不可能だし、後者を俺が望むとでも思ってるのだろうか。


「普通じゃつまらないかと思ったのよ」

「俺からするとつまらなくて結構だから」


 ただでさえ精神面で疲労が溜まっているのだ。追い打ちは止めて頂きたい。


「冗談はこれぐらいにしておくとして、普通に考えるなら『パーティーにもう一度入れて下さい』ってところよね?」

「一応、光神教会の方から言伝を任されたメッセンジャーって事も有りうるけどね」


 前者でも後者でもろくな事にならない予感がする。


「ヘイル様」

「マイもどさくさに紛れて胸押しつけてくるのやめようか? そろそろパーティー以外の人目につき始めるし」


 擬音にするならむにゅんといった感触を背中に感じつつ、やんわり注意し。


「アイリスさん、透明化の魔法って使えたよね?」

「可能だろうけれど、もうあちらからもこちらが見えてると思うわよ?」


 確認すれば返ってきたのは、つれない言葉だった。


「そも、逃げるのも一つの選択肢だろうけれど、一時しのぎにもならないと思うのだけど。王都で情報収集するのでしょ? 待ちかまえているのを目撃するたびに透明でやり過ごすつもり?」

「分かってはいるんだけどね。追放した側の気まずさというか……」


 それに口を開いたら厄介ごとの種しか出てこない気もして、出来たらやり過ごしたかったのだ。


「ヘイル様……わかりました。それでしたら、私が用件を聞いてきます」

「あ、マイ――」


 別に人任せにするつもりはなかった。だが、気づけば俺の背中からはがれたマイは歩き出していて。


「いいの?」

「いいわけないから! マイ、待って、俺も行くから!」


 俺は慌ててマイの後を追いかけ。


「「あ」」

「勇者ヘイル、せ、先日は……失礼致しました」


 俺とマイが声を発しかけたところで、先日の超級神官は俺に頭を下げる。


「あー、それでまたパーティーに入れてくれって?」


 謝ってきたと言うことは、おおよそそう言うことなのだろう。


「いえ、そうではなく……あたくしの主が勇者ヘイルにお詫びをしたいと」

「へ?」


 予想が外れて一瞬呆けるが、これはきっとあれだろう。お詫びを口実に喚び出し、目的は別にあるという。


「もう済んだ話だし、気にしていないって言ったら?」

「いえ、是非ともお連れするようにと」

「……はぁ」


 先方は逃がす気がないようであり。


「どうしようか、アイリスさん?」

「話をするだけしてみたらどうかしら? ここで拒否してもどうせ宿まで押しかけてくるわよ」

「そっか、そうだよね」


 これからやらなくてはいけないこともあるのだ。面倒ごとはさっさと済ませてしまった方が良い。俺は謝罪をうけるだけならと招待されることを了承し、歩き出した超級神官に続いたのだった。


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