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十一話「勇者が来たんなら魔王が来てもおかしくないよねと思った時点できっとおかしい(後編)」

「まず、あの勇者というかウサギっぽい獣人と対立する経緯を教えて貰っても?」

 勇者と魔王、どちらの応援も出来ない俺が望んだのは、知ることだった。

「なるほど。どちらにも縁の出来たうぬとしてはかの勇者と我の戦いを止めたいと考えたとておかしくもないか。良かろう」

「魔王様ッ」

 俺への理解を見せる主の発言へ魔族の少女が声を上げたが、それを魔王ゼグフーガこと和己さんは視線だけで制し。

「始めに言っておく、うぬは全てを知れば『何故こんな事を聞いてしまったのか』と後悔することになるやもしれぬ、それでも聞くか?」

 今度はこちらに向けられた和己の目に俺は無言で頷いた。

「良かろう。あれとの因縁は二代程前の魔王の御代に遡る」

 二代、声には出さないが心の中で反芻した。魔族は寿命が長いと聞く。

「ああ、二代前とは言うが、先人の内お一人は寿命ではなく勇者との戦いで身罷れた。故にうぬが想像した程我らとあれの因縁は長くないが、そも事の始まりは二代前の魔王陛下のモフモフ好きに端を発」

「すいません、ちょっといいですか? いきなり不穏な感じになってきたんだけど」

 言葉を遮り、片手を挙げて質問してしまった俺はきっと悪くないと思う。

「かもしれぬが、ここで話を止めるというのも問題であろう。さて、そのモフモフ好きな魔王オ゛ールモーヴ陛下は愛玩の為に今では禁じられた術を使い、人工生命、獣人種のホムンクルスを作り出した。まぁ、ぶっちゃければあの勇者達の先祖であるな。あれらは当代魔王陛下と陛下と趣を同じくする者達の欲求を解消するため作られ、改造され、繁殖され、以後も当代陛下を含むモフモフ愛好会に管理運営され続ける筈であった。敵対する別の魔王の手の者による介入が行われるまでは」

 神妙な顔で和己さんが明かす経緯にもうこの時点で俺は頭が痛くなり始めていた、だが、魔王は容赦などしなかった。

「その手の者はあれらにこう囁いた『力が欲しいか』と」

「ベタ過ぎッ!」

 おれがツッコミを入れても止まらない。

「『自由が欲しくないか』とも言っていた『俺は女の子にモテモテになりたい』とも」

「三つ目いらないよね?」

 何故このタイミングで唐突にカミングアウトするのか。俺が現場にいたなら絶対ツッコンで居たと思う。

「あれらは介入した者の誘いに乗り、力を得て魔王オ゛ールモーヴ陛下に手傷を負わせ、脱走した。陛下が最も執着為され『シャロ』と名付けていた雌の個体を掠う形でな」

「うわぁ」

「『シャロ』を奪われたこと、飼いウサギに手を噛まれたこともあるが、己が創造物に背かれ逃げられたということが他の魔王に知られればオ゛ールモーヴ陛下は大恥をかく。そう、病的なまでのモフモフ好きという欠点はあったものの陛下は名君であらせた、他の魔王が妬む程に。だからこそウサギホムンクルス達の逃亡と言う大スキャンダルを知ればこれをネタに他の魔王達が魔王オ゛ールモーヴを嘲ることは間違いなく。実際、そうなった」

「あー」

 和己さん曰くさんざんに馬鹿にされ、他の魔王からは以後ウサギに負けた魔王としか呼ばれなかったそうな。

「恥ずかしさのあまり陛下は退位され、次に即位した魔王カンツヴァエル陛下は先王の無念を晴らそうと本腰を入れてあれらの捕獲に乗り出したのだが」

 和己さん曰く、一つの想定外があったのだという。独自の種族として在住する国に認められるまでに至っていたウサギ達に一羽の勇者が生まれたのだ。

「勇者は雌で名は皮肉にも『シャロ』。かつてオ゛ールモーヴ陛下が執着されたかの『シャロ』の血を引いていた。ウサギ達は他の魔王の手の者から与えられ、逃げ出した時に使った力を研鑽し続けており、これが勇者の資質ある者と出会ったことで魔王すら屠りうる力へと変貌し、最終的にカンツヴァエル陛下はあれらの勇者によって無念の戦死を遂げられた」

「そして、次に即位したのが」

「我よ。ちなみにオ゛ールモーヴ陛下の興したモフモフ愛好会の初期メンバーの一人が脇に控えて居るこれの祖父でもある」

 明らかな苦笑を浮かべつつ肩をすくめた和己さんが示した先は片膝をついたままの魔族の少女。

「えーと」

 俺は微妙な表情で言葉を探し。

「我は後悔することになるやも知れぬと――」

「そっち側の後悔とか想定外ですって!」

 和己さんの言葉を遮ってツッコんだ。

「とりあえず、事情は聞きましたし、確認にしかならなそうですが、ウサギさん達との和解は無理、ですね?」

「うむ。こちらはあれらを被創造物と見下しているところもあるが、何より先代を始めとしたあれに討たれた者達の家族が納得すまい。そして、こちらに被害が出た後あれらを捕獲ではなく仇として殺す者が出始めてな。あちらも少なくない犠牲は被っておろう、故に」

 望みは薄いと言いたいのであろう、ただ。

「それではどちらかが滅ぶまで戦いは終わらないのでは?」

「かもしれぬ。が、何時どこであれ戦いを終わらせるというのは難しいものよ。我が退位する程度であれが矛を収めるつもりであるなら王座など次の魔王にくれてやっても良いが」

「ひょっとして和己さんはウサギさん達と和解しようとしたことが――」

 俺が最後まで言うよりも早く、和己さんは無言で肩をすくめた。

「転生者故に自分になら出来ると自惚れておった。あのころは我も若かった」

「今でも結構若そうに見えるんですけど」

 魔族が長命だからだろう。転生者というなら寿命の認識は日本人ベースであるだろうし。

「うぬの願いは聞いた。そして我としても戦いを終わらせるのはやぶさかではない。たが、可能か不可能かで言うならば不可能と見る。それをうぬが覆せるというのであれば、その時は……」

「ありがとうございます」

「ふ、その言葉はうぬが現状を打開して見せてからでよい」

 頭を下げる俺に笑みを浮かべた魔王はチェックアウトのため部屋を出て行った。菓子折を持ったままの部下を残して。

前後編の後編なので今回は追放なしです、ごめんなさい。

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