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百十八話「酷い嫌がらせを見た」


「酷い嫌がらせを見た」


 顔の半分を手のひらで覆い隠し、俺はポツリと漏らした。このプチ砦、可能なら建造物ごと爆破解体したい。


「もう最初の一つ二つで酷いのは解かってたけどさぁ、何なの、これ?」


 ふつうのエロ本では引っかからない場合も考えたのか、次に見つけたのは、男と男が裸で絡み合ってる挿絵の本だった。普通にスルーしたら次は女同士。


「その次は普通の本だったけど、作者の名前が城塞都市のあの作家とか」


 俺があの作家と関わり合いになったことをどうやって知ったのかは謎だが、たぶんこれはお前のことをこれだけ調べているぞって敵からの声なきメッセージなのだろう。


「そして忘れたころに変態ルームその2とか」


 今後のロードマップと称して俺への嫌がらせ予告を壁に書き連ねた部屋もあった。


「ホムンクルス技術でコピーした女の子を大量に送り込む『勇者パーティーハーレム化計画』って」


 先日のコピー超級神官はその布石だったのだろうか。


「わざわざ送り込むって言われて懐に入れる奴がどこに居るかって思うけれど」


 その量産された女の子も野放しにはできない。先日の子の様に何らかの戦闘力を持っているなら、脅威になる。アイリスさんの固有技能も効果がないのだ。


「このハーレム化計画って酷いのが偽りで、本当の目的はコピーされたたくさんの女の子で構成された俺達への刺客ってことも十分ありうるし」


 油断しなければ気配を察知して罠で捕獲してゆくことも可能だとは思うけれど、襲撃がもし町中だったら。


「下手をすれば周囲に被害が及ぶ、それも怖いけど相手は女の子」


 捕まえたときにあることないこと叫ばれたら、どうだろう。


「社会的に俺が死ぬよね?」


 一人二人なら騒がれる前にさるぐつわとかで口をふさげるかもしれないが、両手の指の数を超えるような人数を一度にとか言われると取りこぼしが出る可能性が出てくる。


「普通に魔王とその部下がとってくる行動のイメージからはかけ離れてるけど、効果的なのは間違いない」


 これが、謀略の魔王の本気と言うやつなのだろうか。


「英雄譚とかにはとてもできないような内容だなぁ」


 とか、呟いて現実逃避したいところだけど、その本気が向けられた先は俺だ。


「放置したら、取り返しがつかなくなる」


 投入できる人員、戦力はあちらの方が上なのだから。


「少なくとも今回、こんなロクでもないことをしていった奴らは少し前までここに居たはずだけど、追いかけてくるぐらいは想定してるよね」


 そもそも追いかけるには、この場に残されたモノを包み隠さず見せるか、隠ぺい処分する必要もある。


「これ自体、時間稼ぎも兼ねてるのか。なら、これを全部無視して入り口に置手紙でもして俺が単独で追いかけた場合――」


 実行部隊を捕捉できるかもしれない。


「もっとも、それをやるとアイリスさんの固有技能って援護なしで四天王を含む敵とやり合わなきゃいけなくなるんだよね、しかも俺単独で」


 魔族側からすれば、これも一つの狙いの可能性がある。こちら側にもアイリスさんの固有技能という強みがあるが、それは魔王側も理解している筈。むしろ、追ってくることを望み待ち伏せをしていても不思議はない。


「くそっ、どう動こうとも対処できるってことか」


 厄介な相手を敵にしているとつくづく思う。


「これはもう冗談抜きで一刻も早く魔王を倒すしかないか」


 ロードマップとやらの内容を鵜呑みにする気はないが、ホムンクルスの技術で女の子を量産するにしても一朝一夕で作成出来るとは思えない。行動に移すまでに一定の期間が必要な筈だ。


「逆に言うなら、それが魔王を倒すまでかけられる時間でもあるってことで‥‥まず魔王の居場所を把握する必要があるな」


 仮にも一国の王なのだから、RPGのテンプレ魔王よろしく、魔王城の玉座にふんぞり返っていてくれれば、魔王の城を目指すだけだが、仮にも謀略の魔王を名乗る相手が狙ってくれといわんがばかりに自分の所在を固定した上回りに知られるとは思いがたい。


「玉座にいるのは影武者で本物は隠れ潜んでる位はしててもね」


 驚かないし、あり得ると思う。


「となると、今度こそ情報を手に入れないと」


 ここに来て、先日情報源を失ったことが響いてくるが、悔やんでも死者は生き返らない。


「俺一人で良案が浮かぶとは思えないし、情報を入手する方法についてはアイリスさん達と相談するとして――」


 問題は一つ、この砦の置きみやげをどうするかであり。


「ほんと、どうしよう」


 俺は途方に暮れるのだった。






 



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