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百十五話「先行偵察」


「敢えて無防備を晒して『これは何か策なんじゃ』って相手を疑心暗鬼にする策がどこかで聞いた話にあったよね? 確か空城の計だっけ」


 現在の状況に当てはまりそうだと思うのは、単に俺がそうであってほしいという願望だろうか。戦いはないにこしたことはないし、危険を冒さず目的を達せたならある意味万々歳の筈。


「苦労して山を登って来たものね、気持ちはわかるわ。もし、本当に壊滅していたなら、とんだ肩透かしだものね」

「まぁ、やるせなくはあるかな。あの苦労は何だったんだ、的な」


 ともあれ、何にしても確認はしてこないといけないだろう。


「罠や策の可能性もあるから、ここまでの様にまず俺が様子を見てくるよ」


 俺はアイリスさん達に告げると、周囲を警戒しつつ、歩き出す。


「流石に、罠の類は仕掛けてある、か」


 岩が大きな石が退けられた場所が細長く続いているところどころに数人分の骨が散らばっているのを見ると、おそらくはスケルトンが周囲を巡回するのに使っている道なのだと思う。


「逆に言うと、スケルトンが通っても問題ない罠しか仕掛けられていないということでもあるよね」


 最初に見つけたのは、落とし穴。スケルトン程度の重さなら蓋になっている部分が耐えられる麓で見かけたのと同じタイプの罠だ。


「考えられるのは、こういう系統と、後は毒ガスとか毒液とかそっち系かな」


 呼吸をせず、生物でもないアンデッドに毒は効かない。もちろん、例外はあるが、この手の罠を味方の被害を考えずに仕掛けられるのは、アンデッドなど非生物のみで編成されている場合の強みだろう。


「とは言うものの、毒系統の罠はまだ殆ど見ていないんだよね」


 毒は時間の経過で変質してしまうモノもあるから、それを嫌って避けた可能性もある。発見した罠のいくつかは朽ちていたのだ。


「そう見せかけて油断させて、拠点の中は毒罠のオンパレードってことがあっても驚かないけど」


 建物となれば、密閉空間もあるだろう。毒ガスの罠はそう言った場所の方が適した罠だし、そも屋外より風雨をしのげる建物の中の方が罠の劣化も抑えられる。


「拠点に入ってからが本番かな」


 落とし穴の蓋を外してただの穴にし、脇を通り抜け先へ。もうこの時、拠点と思わしき建造物のシルエットは見えていたが、抱いた印象は小さな砦と言ったものだった。


「山頂の小さな面積に立てるのだからこぢんまりとするのは仕方ないし、少し前まで居たのが王都だからなぁ」


 無意識に比較対象を王都の施設にしてしまうことも、これから侵入する拠点に小さいというイメージを加味する事へ一役買っているのだと思う。


「番兵もなし……例によって骨に戻ってるわけだけど」


 道を辿って辿り着いた扉の左右に転がる骨は合計四人分。


「実は骨にもどった擬態で突然襲いかかってくるってことも考えたけど、外の方はそれもなさげか」


 次は建物の中だが、その前に。


「罠を仕掛ける場所と言えば、扉だけ、あ、あったあった。扉の取っ手に針、ね」


 チクリと刺すだけではたいしたダメージにならないことを考えれば、十中八九が毒針だろう。


「スケルトンには効果が無く、生身の侵入者だけが引っかかる。とりあえず一つ予想が当たったと思って良いのかな?」


 毒針を罠として回収しつつ扉に手をかける。


「次は中、か」


 気配を探り扉のすぐ向こうに敵の気配がないことを確認し、扉を開けて行く。


「薄暗いね」


 俺が扉を開いて差し込んだ光が、斬り込むように床の一部を照らした。


「ここにも骨」


 少し明るくなったことで浮かび上がったのは槍を抱え込むようにして床にしゃがみ込む人骨が二人分。屋外のモノと違うのは風雨をしのげる環境にあったからだろうか。


「中ぐらい装備は違うかと思ったら、麓のモノと同じかぁ」


 それでも何らかの理由で動き出す事を考え、武装を解除してから更に中へ。


「空気はとりあえず埃っぽいけど可燃性のガスが充満してたりはしないようだし、明かりをつけるかな」


 後方から差し込む光が届かなくなってから慌てては遅い。俺は荷物からカンテラを取り出すと、火をつけた。


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