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百十三話「登山5」

今日は棒状お菓子の日か。


「麓に詰め所がいくつもあったのは、上り始めると詰め所を設置できるような平らで開けた場所が殆どなかったから、のようね」


 頭上を流れる雲は近く、カラカラと音を立てて転がった小石が斜面を転がり落ちて見えなくなる。高所恐怖症の人がもしあの小石を目で追っていたなら、それだけで気が遠くなっただろう。


「開けた場所がないというか、急斜面にもほどがあるよね?」


 有名な高山への登頂映像かと思った、そう言って通じるのは、転生者かトリッパーだけだろうが、詰め所が途切れたと思った辺りから、道が険しいなんてモノじゃなかった。まっすぐ登ればひっくり返って真っ逆さまの斜面を魔族かアンデッドが付けたと思わしきつづら折りの道をたどってジグザグに進んだ先に待っていたのは、ロッククライミングの親戚くらいにはなれそうなゴツゴツとした岩場登り。


「しがみつくとかえって危なそうですから」


 とか何とか言って、エリーシアは命綱を付けた上で魔法で強化した脚力によって岩から岩へとジャンプしつつ登るという荒業を見せていた。


「えーと」

「体型が体型なだけに激しい運動は今までできなかったけれど、運動神経とバランス感覚はかなり秀でていた様ね」

「『かなり秀でていた』ってそういう問題?!」


 以前アイリスさんが白兵戦も出来るとかそんなふうなことを言っていた気がするけど、あれなら確かに問題なくこなせるだろう。それでいて前知識なしでエリーシアを見ればあれで白兵戦が出来るとは普通思わない。


「まぁ、あの娘についてはご都合主義を疑うレベルで才能が揃っていたから出来ることだから、超級神官全員にアレが出来るとは思わない事ね」

「いや、思う思わない以前にあの動きをするエリーシアが集団になった光景を想像したら、それだけでこう――」


 圧倒される。ビジュアル的にも凄い光景だが、魔法で強化された身体能力は前衛で武器を振るう職業に匹敵するだろう。いや、エリーシアの魔力量を考えれば肉体強化を重ね崖すれば下手をすると上級職の身体能力すら凌駕するかもしれない。


「持てる魔力の殆どを短期間の肉体強化と肉体の保護に使用、短期決戦で一気に片を付けようなんてされたら……」


 俺でも危ういんじゃないだろうか。今はまだ、肉体強化魔法を使って動く機会は少ないが、経験を積んで近接戦闘にも慣れてきたとしたら。


「短期決戦……ロマンよね。もっとも、それをやるにはまず魔法を作成するところからやらないといけないけれど」

「え?」

「あの娘みたいな魔力量の持ち主で肉体強化魔法を使う人って私が記憶する限り居ないから、そう言う魔法は存在しないのよ。人間と比べ物にならない魔力量を持つ種族なら別だけど、例えばドラゴン。まぁ、あっちは無意識で肉体の維持とかの為に魔法を使ってるタイプだと思うから、先方に教えてくれるつもりがあっても、伝え方が解からなかったりするでしょうけれど。心臓を動かすとかごく当たり前に意識せずしてることでしょうし」


 種族によっては、教えて貰うこと自体が難しいと言うことか。


「可能性があって、接点がある相手というと、魔族になるけれど」

「あー」


 和己さんこと魔王ゼグフーガもしくはその配下の魔族なら、頼めば教えてくれるかも知れないというのはわかる。


「理解はしたけど、話を持ちかけようにも最近接触ないからなぁ」


 やはり、連絡手段の確立はそれなりの急務なのだろう。


「「にゅん」」


 魔王ゼグフーガと聞いてこの魔王を討伐するため一族に送り出されたウサギ勇者達が微妙そうな表情で鳴くが、これまでの経緯を鑑みればきっと仕方ない。


「ここに四天王の一人が居るはずだし、そいつを倒したら何らかの接触があると良いんだけど」


 現実はゲームとは違う。何かを為したらイベントフラグが立って次の展開に、とはいかない。ただ、四天王を一人撃破という戦果を挙げたなら、普通に接触があってもよい気もして。


「……とりあえず、考えるのはこれぐらいにしておこう」

「そうね」


 周囲の警戒は怠っていないつもりだが、岩登りもまだ全体の三分の二が終わったぐらいだ。この岩登りが終われば、雲の中に突入することは出来そうだけれど。


「雲の向こうがどうなってるか、だよなぁ」


 ここまでは罠と地形以外の障害もなく、あっさり進んでこられているが、この先もすんなりとは思えず、俺は顔をしかめるのだった。



書いてる時に気づいていれば棒状お菓子の日を何かに盛り込めたかな?


いや、出来ても槍や矢に泥とかまぶしてそれらしくするぐらいしか思いつかないけれど。


うん、無理矢理過ぎるね。


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