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十話「勇者が来たんなら魔王が来てもおかしくないよねと思った時点できっとおかしい(前編)」

「罠師ヘイルよ。よく我が元へとたどり着いた。我が魔王ゼグフーガだ」

 たぶん、いやきっとそれは様式美と言うやつなのだろう。マントをなびかせ、いかにも大物的な威圧感を漂わせた魔族の王は比較的リーズナブルな旅人用の宿の一室で俺が入室するなり、言い放った。脇には先日追放したはずの魔族の少女が菓子折りの箱を抱えたまま片膝をついている。

「えーと」

 フットワークが軽いと称賛すればいいのだろうか、部下である四天王のひとり、つまり控えている魔族の少女が世話になったことを聞きつけたらしい魔王様はお礼をするため俺を呼び出し、今に至ると言う訳だ。

「何が『と言う訳だ』なんだって思われるかもしれないけれど」

 現実逃避でもしなければやっていられないよね、この状況。もう一人立ちしても大丈夫かなと思った弓使いの少年を追放してユウキやアイリスさんと談笑していたら、呼び出されて向かった先に居たのが魔王なんだから。

「礼をするというのに呼び出したことは詫びよう。だが、言い訳をさせてもらうならば魔王と言う立場上、相手の元にこちらが出向くというのは権威上問題があったのだ」

 かと言って本拠地まで呼び出しては礼どころか迷惑、俺に遠慮と言う名の拒絶をされることを危惧した結果、この魔王様が街まで赴いてから俺を呼び出すというツッコミどころしかない今のモノに決まったと言ったところなんだろうか。

「それはかまいませんけど、この街魔族には辛いのでは?」

 念のためアイリスさんにはできるだけ呼び出し先から離れて貰ってはいるものの、先日の魔族少女の様子を思い出すと尋ねざるを得ず。

「気遣い、感謝する。だが我とて魔王を名乗る者。魔を退ける力への耐性は有しておるし、我が固有技能は自身を含む魔を強化する力を持つ。せいぜいが相殺されるだけよ」

「ちょ。固有技能?!」

 俺が驚いたのには理由がある。固有技能はデメリットつきのモノもあるがたいていがぶっ飛んだ効果を持っており、その所有者は俺が確認した限りでは転生者かトリッパーに限られるのだ。もっとも、転生者やトリッパーが必ず固有技能を持つわけでもないらしいのだが。

「いかにも。しかし、よもやこのような形で同胞に出会うことが叶おうとはな。田中・和己だ」

「東坂・智樹ですって、なんだか全力でファンタジーな格好同士なのに名乗りが日本人名っていうのに凄い違和感が、じゃなくて! いいんですか? 部下とはいえ第三者が居る前であっさり明かしちゃって」

「うむ、この者にはこやつの父が四天王であったころポロッと漏らしてしまってな」

 そうか、今更なのか。もっとも、つられて名乗ってしまった俺に非難できる権利があるかも微妙だが。

「以後、秘密の共有者兼協力者として同胞探しを手伝ってもらってもいたが、魔族は寿命が長い分、子が生まれることが稀でな。先代の勇者に多くの者が討たれた直後はベビーブームとでも言おう時期が」

「あー、言いたいことはだいたいわかりました」

 苦労して探したけれど同胞は見つかりませんでしたと、そう言うことなのだろう。ちなみに、俺の口調がいつもと違うのは曲りなりも相手が王であるからである。もっとも、この国の王でもないし、以前敵対してる勇者をパーティーに入れていた身として完全な敬語と言うのもへんな気がして中途半端に無礼な感じになってしまってはいるが。

「そうか、ならばこの話はこれぐらいにして本題に入ろう」

「お礼の話でしたね?」

「うむ。今代の勇者への対応もある故、大した礼が出来ぬと申し訳なく思うが……そうよな、我が部下にならぬか? さすれば、領地と地位を与えよう。悪い話ではあるまい?」

 確認する俺に頷いた魔王様こと和己さんは今思いついたと言った態でそう提案し。

「お礼の筈がヘッドハントになっている件について」

「いや、魔王として優秀な人材の確保は当然のこと。しかもかつて一時的とは言え仲間だったものと敵として合間見える展開、お約束かもしれぬが、燃えぬか?」

「まぁ、お約束とかテンプレ順守の精神は嫌いじゃありませんけどね」

 あのウサギ勇者も嫌いではないのだ。かと言って魔王が転生者仲間と知ってしまうとのんきにウサギ勇者の旅を応援するわけにもいかず。

「ふ、我までフられてしまうとはな、だが良い。うぬが転生者仲間とわかっただけでも収穫よ」

「なんか、すみません」

「よい。それよりも礼だ。何ぞ望みはないか? 話だけはまず聞いてやろう」

 この魔王様、本当におやくそくが好きなのだろう。

「えっと、じゃあ――」

 苦笑しつつ俺は願いを口にするのだった。


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