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百九話「登山」


「この茂り方を見て、超級神官連れてくのは無理って判断を下したのかな」


 それともある程度は今の俺と同じように枝打ちをして進んでから断念したのか。


「敢行しようとしたなら、枝を切り落としたあとがありそうなものだけど、侵入しようとした場所がここじゃないかも知れないしなぁ」


 まぁ、どちらにせよ俺は後続というかエリーシアの為に道を切り開くだけであり。


「……はぁ」


 枝切り落としたばかりの木を見てため息をつく。


「ヘイル様?」

「いや、ついでに罠の材料も確保出来たらなって思ってたんだけどね。この辺りの木々、素材には向かないみたいでさ」


 そう言う種類なのか、生育環境が悪いのか、ついでに伐採して罠に加工しても程度の低い罠が出来るだけと罠師としての俺の経験が訴えている。


「まぁ、落とし穴の蓋を支えるぐらいには使えるだろうけど、落とし穴はまず穴を掘ってストックする必要があるからなぁ」


 行軍をとめてわざわざ穴を掘る余裕なんて流石にない。


「勇者ヘイル、わたしの為ですし、枝を落とすぐらいなら魔法で強化してわたしが」

「いや、エリーシアには出来るだけ魔力を温存しておいて欲しいから、これはこのまま俺がやるよ」


 温存して欲しいとは言ったが、この先の山登りではあの規格外の身体を支えるため魔法で肉体強化を避けられない。故に魔力消費を全くせずに目的地到着は無理だろうけれど、それでも不必要な消費は抑えたいし。


「予想つくもんなぁ」


 エリーシアが肉体を強化して、腕をひたすら振るったら、どうなるか。まず間違いなくあの大きすぎる胸に二の腕が何度も当たることだろう。変形する、跳ねる、歪む、たわむ。荒ぶる胸はそれが恋人のモノでなくても目のやり場に困り。


「それを見たマイが張り合う、と」

「ヘイル様?」

「いや、何でもないよ」


 俺だって何度も同じ失敗を繰り返すつもりはない。あわよくば罠の素材ゲットという副目的は今のところ果たせていないが、俺が先行して枝を落としているのは、他にも理由がある。


「それに、アイリスさんの固有技能で魔族は出撃しての迎撃が出来ない以上何か手を打つとしたら『固有技能の影響を受けない種族を使う』か『固有技能の効果範囲外からロングレンジで攻撃する』か『罠を使う』ぐらいだろうから」


 人間の傭兵なり暗殺者を使うなら、気配を察知。超遠距離攻撃は奇襲の類の対応に秀でた俺が先頭で警戒するのが一番だろうし、罠に関しては俺の専門分野だ。


「枝を切り落としたら罠が作動した何て事になっても困るし、このまま俺に任せておいてよ」


 罠によっては回収して俺の手持ち罠のストックを増やせるかも知れないのだから。


「まぁ、敵方に俺の情報が渡ってるとしたら、罠を設置する何て手段は普通選ばないだろうけど」


 裏をかいて来ることだって有るだろうし、俺達以外の侵入者用に罠が設置されている事は充分考えられる。


「それで、俺達以外の侵入者用に罠を仕掛けたものの無差別弱体化能力持ちてんてきのアイリスさんがやって来ちゃったモノだから外に出て回収出来なくなって取り残された罠があるなんてこともあるかも知れないし」


 そんな取り残された罠の作動したのが険しい山を登る最中であれば、どれ程の被害をもたらすか。


「下手すれば一つの罠でパーティー全滅って事も有りうる……って、言ってる側から」


 山刀を振るう手を止め、慎重に枝をまくり上げた下にあったのは、木と木の間、横に這わされていた細く丈夫な糸。


「これは鳴子の罠、かな。引っかかると音で侵入者の来訪を知らせる……ってことは、音の鳴る近くに詰め所か何かがあるな」


 いくら侵入者の存在を罠が感知してもそれが仕掛けた側に伝わらなくては意味がない。


「山賊の拠点だったりしない限りは、無人の可能性が高いけど」


 職場放棄を良しとせず、アイリスさんの固有技能で衰弱した魔族が見つかったなんてオチは流石にないだろうし。


「油断する気はないけど、辿る前にこの罠は解除しておこうかな」


 後続の仲間達が引っかかっても面倒なことになる。俺は見つけた罠の側にしゃがみ込むと作業を開始するのだった。



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