百五話「女の子をトイレに連れ込んでアレしちゃう話」
「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」
これでこのセリフも何度目だろうか。トイレの壁に寄りかかり恍惚とした表情をした少女を見つめつつ、ふと思う。
「と言うさ、この状況って何なんだろう」
打開策を求めて少し考えたら、解決策はあっさり見つかった。それが、このトイレの個室に連れ込んで追放ごっこというモノだ。周囲の気配は確認していたから、人に聞かれていることはまずない。
「ないんだけど、うん、何て言うか……」
トイレの個室だから狭いし、従業員がちゃんと掃除はしていてくれて居るであろうが、場所が場所名だけにちょっと臭う。
「ひょっとしなくても、これから毎日トイレに連れ込む必要があるのか」
状況を再認識してしまうと何処かに逃げ出したくなる。今日はまだ良い、見つからずに済んだ。だが、連れ込むところを誰かに見られたら。
「シャレにならないよね」
それがアイリスさんならどうか。
「そう、ついにヘイルもやったのね。トイレで追放なんて……わかったわ、お赤飯を炊いておくわね」
理解しすぎな上に巫山戯すぎているアイリスさんが脳裏に浮かぶも、実際も大差ない気はする。
「そうでござるか。拙者、ヘイル殿はいつかやるのではないかと思っていたでござるよ」
今はパーティーに居ない筈のユウキはよそよそしく知人が犯罪を起こしてインタビューされてる人みたいなことを言い。
「勇者ヘイル、今度は――」
自分も連れ込めとか想像上でエリーシアが言い出したところで俺は想像をとめた。現実と剥離しすぎているからではない、あの三人なら普通に想像通りの行動を取っても驚かないからだ。
「智くん、ごめんね?」
「いや、これも約束だし……それにとりあえずは王都を出るまでの辛抱だからさ」
もちろん、マイがもう追放ごっこは良いと言ってくれればすぐさま止めるつもりでもいるけれど。いずれ結婚して子供が出来た時、両親がこんな真似を毎日していたと知ったら、子供はグレるだろう。
「そも――」
流石に結婚したらもうこのごっこはマイだって要求しないと思う。結婚後の追放は離婚とかそっち系をイメージするし、仮に続ける気でもその辺りを引き合いに出してやんわりお断りできるかもしれないし。
「智くん?」
「あ、ごめん。何でもない。と言うかさ、そろそろ出ようか? あんまり良い場所とは言えないし、出て行くとこ誰かに見られると誤解を招くし」
用が済んだなら、早急に離脱を計るべきなのだ。
「うん、智くんがそう言うなら」
とりあえずマイが従ってくれそうなことに俺は胸中で胸をなで下ろし。
「ヘイル、ここに居たの? 色々聞き込んできたわよ」
情報収集から戻ってきたらしいアイリスさんと出くわしたのは、トイレを出て廊下を少し進んだ先だった、ただ。
「それから、まぁ二人がそう言う関係なのは知ってるし、無理はないけれど……トイレでいちゃつくのは感心しないわよ?」
「え゛」
何故かアイリスさんは俺達がトイレで一緒だったことを知っている様子であり。
「どうしてわかったって顔してるけど、トイレの臭い移ってるわよ」
「あ゛」
指摘されるまで気が付かない俺が迂闊なのか。
「まぁ、ヘイルがうっかりなのは最近仕様っぽいし、話が進まないから、報告させて貰っても良いかしら?」
「え、あ、はい」
「光神教会の人が言ってた四天王の拠点、この王都から目と鼻の先みたいよ」
抗議したいところだが、ポカをやらかしまくってるのは事実であったし、アイリスさんの情報というのが気になったのもあり、素直に頷けば、いきなりとんでもない情報が飛び出してきたのだった。
「何それ?! 何でそんな距離にあって何もしないの?」
「してたらしいわよ? 距離的には近いのだけれど、険しい山の頂にある上に、結界らしきモノに遮られて手も足も出なかったとか。険しい山の上って地形だから攻城兵器は持ち込めないわ、あの娘のお仲間を連れて行くのも傾斜がきつく道も厳しくて所有者が首を縦に振らず、手詰まり。そこに私達がのこのこやって来たみたいね」
「あー」
それで丁度良いから任せてみよう、みたいな話になったのか。
「もっとも、問題の結界って言うのも話に聞いてるだけだからどれ程の強度があるかは不明なのよね。肉体強化魔法の使えるあの娘が山頂まで行ければ、最大威力の魔法をぶつけて貰うって選択肢も出てくるけど」
末尾を濁すということはアイリスさんにも確信が持てていないのか。
「アイリスさんじゃ無理なの?」
「上級職とは言え魔力容量の差を考えると、時間さえかけて良いなら魔法一撃の威力はたぶんあの娘の方が上なのよ。出来る出来ないはさっきも言った通り、実物を見ないことには何とも言えないわ。それなら高威力の方が確実でしょう?」
俺が尋ねると、アイリスさんは微妙な表情で肩をすくめた。
ヒャッハー! 久々の追放だーッ!




