百三話「合流の後に」
「で、その後世話係だと思ってた人のこと忘れてたのに気が付いて、捕まえてあった場所にいったんだけどさ」
支配を解いて当人に聞いたところ、ただの冒険者だという。
「支配されて臨時の世話係をさせられてたみたいだったから、身分証を確認してからその場で解放したよ」
一穂さんと護衛の人の協力で俺は身軽になった状態で何とかアイリスさん達と合流し、今経緯の報告に至っていた。レイミルさんの召喚獣を通してある程度の情報は伝わっているとは思うけれど、過信して情報のすれ違いが起きても拙い。
「若干というかかなり気になる点はいくつかあるけれど、ひとまず無事だったのは何よりね」
「気になる点って言うと？」
「例えばその一穂さんが魔王ゼグフーガの娘さんか確認していないところが一つね。この世界には魔王が複数居るのよ？」
アイリスさんとしては本当に和己さんの娘なのか疑問に思っていると言うことなのだろう。
「確かに肯定も否定もしていないんだけどね、けどさ……魔導書の効果は本物だったし、他の魔王の娘さんにしては俺に好意的過ぎたしなぁ」
謀略の魔王の娘で、好意的だったのは俺を油断させるためと言う可能性もあるけれど、だとしても足手まといにしかならない捕虜と俺、そしてレイミルさんの召喚獣しか居ないあの状況は襲撃するならうってつけの状況だったはずだ。
「一穂さんは固有技能もちらしいし、護衛に四天王の一人がついてた上、マジックアイテムの支配を解かなければあの複製女神官もあっちの戦力になったかも知れないし」
マジックアイテムをどうにかすると俺を騙して女神官のロープを解き、自身の護衛と示しを合わせて奇襲されたら今頃無事だったかどうか。
「それにマイが強く止めるような事も無かったからなぁ」
もし以前の村の時のような反応を見せていたなら、もっと警戒していたと思う。
「一応考えた上の行動だったと言うならこの件についてはもういいわ。素性は怪しいけれど協力してくれたというのは事実のようだし、複製に刻印をするというのは初耳だけれど人造生命の技術に関しては魔族の方が詳しいもの」
「そっか。今度和己さんからの使者が来たりした時に念のため確認はしておいたほうがいいのかもね」
問題はアイリスさんの固有技能のことを考えると、和己さん以外ではアイリスさんとまともに会話も出来ないという点だ。
「直接話せないとなると俺が伝言するか、手紙とかそう言う手段を使うかだけど」
「手紙の方が手軽なのは確かね。ただ――」
「こっちの世界だと届くのに時間がね」
それを言うなら、俺が伝言する場合も伝言というレベルで済む距離に話す相手が居てくれる必要があるわけだけれど。
「暗黒神崇拝者の村で四天王の子に会った時に『確実な連絡方法を確立したい』とか提案しておくべきだったかも」
思い出して後でこうすれば良かったああすれば良かったと後悔することは割と良くある話だと思う。
「人は物語の中に出てくる完璧人間ではないもの。テンパって足り、せっぱ詰まってれば思い至らないことだってあっても仕方ないわ」
「あー、うん。それはそうなんだけどポカには変わりないしなぁ」
「なら、せめて繰り返さないよう覚えておくしかないわよ」
慰めるように肩へ置かれた手にうんと応じて俺は話題を変える。
「ところで、護衛の方は無事果たしたって聞いたけど」
「ええ。もっとも、そのあとすぐさまヘイルを拾いに引き返したわけだけど」
「となると、情報収集に本腰を入れるなら明日からか」
護衛対象の居なくなった今なら、馬車はもっと速度を出しても問題はない。明日の内に王都にはたどり着けるだろう。
「有力な情報が手に入ると良いけれど、あれがなぁ」
情報収集だけにかまけていられないであろうという予想も出来て、思わずため息が漏れる。
「光神教会なら、ヘイルが王都に到着したと知れば何らかの行動を起こすでしょうね」
「だよね。無理難題とかふっかけてこないと良いけど……って言うとフラグかな？」
「大丈夫よ。立てようが立てまいがロクでもないことになりそうな予感が既にしてるから」
アイリスさん、それフォローになってないですよ。
「けど、いつものことでしょ？」
「ノーコメントで」
否定出来なくても行程もしたくなくて、俺は真顔でそう言ったのだった。
