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九話「メイドと彼女の過ち」

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 俺がそのセリフを口にすると、エプロンドレス姿の少女は短く「え」とだけ音を発し呆然と立ち尽くした。

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

「もう一度繰り返してくれと言ったわけじゃありません!」

 すぐ我に返ってツッコミを入れてくるあたり立ち直りが早い。と言うか、この少女能力的には申し分なく、それだけならこのセリフは言掛かりに近い。エプロンドレスと言うアレな格好にしても戦闘が予想される仕事では金属製のプロテクターの様なモノをエプロンドレスの上から装着するし、見た目いかにもメイドさんと言った格好の着衣の方も金属糸が密かに縫い込まれていて実は防刃性があるのだ。

「出来れば誤魔化したかったんだけど、それじゃ仕方ないか。お前が居るとアイリスさんが辛そうでさ」

「アイ――お嬢様が?!」

 一瞬名前の方を口にしかけて言い直そうとしたと思われるこの少女は、アイリスさんの家に仕えている正真正銘のメイドさんであるが、同時にアイリスさんの乳母姉妹であり、幼馴染でもある。

「まぁ、話を聞いたら……ねぇ」

 アイリスさんがお貴族様な実家を出て俺たちとパーティーを組んでいる最大の理由は配偶者探しだが、それより小さなりゆうとしてこの少女が存在していた。

「話?! 話とは」

「や、本人の許可なく話すのはちょっと」

 食い付いてきた少女から目をそらすと、俺はその日のことを思い出す。

「あの娘のことは嫌いじゃないわ。前世の自分から見るとその逆ね。ストライクゾーンど真ん中」

 そう、アイリスさんはこのこのことが嫌いではなかったむしろ大好きであり、身分や立場上一緒に居られないときなどを除けばずっと一緒に居るくらい仲は良かったのだと言う。

「それが間違いだと気づいたのはいつのころだったかしら。……その時はまだ家に居たから他の令嬢との交流とかもあって、会話する中で私とあの娘の距離が近すぎる気がしたのよね」

 きっかけは、それ。

「今の性別は前と違うからあの娘との距離感も『女の子同士』ならこんなモノとか誤解していた私は遅まきながらも過ちに気が付いた。あの娘、興味を抱かないのよ他の令嬢が熱を上げている近衛騎士の誰それとか子爵家嫡男の何とかとか、そう異性に」

 前世が男のアイリスさんにとって令嬢たちが熱狂する所謂イケメンはノーサンキューであったようだが、アイリスさんの幼馴染であるその少女は違う。

「私が一緒に居たらきっとあの娘は異性に興味を持たなくなってしまう。それが耐えられなかったの。いえ、それだけだと嘘ね。私はあの娘が私を恋愛的な意味で好きになったら耐えられない」

 だから距離を置いたというのに、件のメイドさんは気が付けばウチのパーティーに加わっていたのだ。胸がかなり大きいのでひょっとしたらと思ったが案の定、誘ったのは、単独行動していたおっぱい狂いことござる系トリッパー。

「断腸どころか腹に突き刺した刃をドリル回転させるぐらいの思いだけど、それでも男だし」

 ユウキに異性として惹かれたのであれば応援することすらアイリスさんは考えていたらしい。

「あの娘も下位とはいえ貴族なのよ。私がわがままやらかしてる分、恋愛結婚でも認められる可能性はあると思うの」

 距離を取っては居るものの、アイリスさんは彼女のことを大切に思っていたのだろう。

「あの娘には幸せな結婚をして欲しい。そして私も精神面とで妥協できる相手を見つけて、やがてお互いに家庭を持って子供たちも交えて仲良くしていけたら――」

 それがアイリスさんの願い。

「はぁ」

 俺は知っているからこそため息が出てしまう。目の前のメイド少女が主人の下着を抱いている今の光景に。と言うか、アイリスさん下手すると手遅れなんじゃないですか。

「むしろ、こじらせてアウトゾーンに突入してる気がするんだけど」

 これは今から強制して修正が効くのだろうか。おっぱい狂いが相手でもいいと言っていた辺り、うすうす察していたのか。どちらにしても俺のすべきことは変わらない。目の前の痴女メイドをパーティーから追放することただそれだけだった。

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