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九十八話「続き」


「流石にそろそろ手伝うのですよー」


 片手に微妙そうな表情のウサギ戦士を抱えた狂戦士が顔を出した時、俺は反応に困った。狂戦士は基本的に近接戦闘を得意とする職業で、今居るのは爆走する馬車の上。しかも片腕を自分で塞いでいるのだ。協力を申し出られて感謝しない恥知らずのつもりはないけれど、それ以上にどこへツッコめばいいやらわからなかったのだ。


「ふふ、狂戦士にだって遠距離攻撃の技は存在するのですよー」


 すっと抱えていたウサギ戦士を降ろすと両腕で獲物を握り、構えをとって獰猛に笑む。


「ちょ、それって」


 俺は知っていた、狂戦士アリエラが放とうとしているモノを。以前にもパーティーを組んだ事はあったのだ。


「大丈夫ですよー。前より調整は効くようになったですよ」

「『なったですよ』ってその技は」


 俺の記憶するそれは、アリエラが持つ唯一の遠距離攻撃手段だが、剣風を広範囲にバラ撒くほぼ無差別攻撃の範囲技であり。


「もふもふでもなければ、邪魔な魔物。全部薙ぎ払う、ですよー」

「待」


 待てと言うより早く、剣風が視界内を蹂躙する。血しぶきとともに断末魔があちこちであがり、断ち切られた魔物の身体の一部がボトボトと降る。


「ふぅ、とりあえず生き残りは居ない筈ですよー」

「筈ですよじゃないよね」


 後方に流れて行く光景を凄惨な地獄絵図というかビジュアル的に非情にスプラッタで環境に優しくない風景に変え、満足げにかいてもいない額の汗を拭った狂戦士に俺はジト目を向けた。


「あの技の範囲内に俺達が追ってる人物が居たらどうするつもりだった?」


 時間的にそろそろ補足出来ても不思議はない。大移動していた魔物を仕留める必要はあり続けているにしても、俺はそちらにも気を配っていたのだ。幸いにもそれらしき気配は感じなかったが、親切心でとは言え、許可無くいきなり範囲殲滅をされては流石にたまらなかった。


「ふふ、心配ご無用ですよー。そう言うこともあろうかとモフモフさん達と一緒なのですよ」


 だが狂戦士は得意げに笑むと、足下のウサギ戦士を示し。


「ウサギさん達にそれらしい足音とかが無いかを最初に確認して貰っては居るのですよー?」

「な」


 俺は絶句する。


「狂戦士が頭を使った?!」


 それが頭突きなら納得する。だが、ちゃんと危険性を認識して事前に確認を取っていたとは。


「ヘイル、言いたいことはわかるわ。明日の天気は晴のちオタマジャクシね」

「どういう事ですかー!」


 俺の気持ちを汲んでくれたアイリスさんの言葉に狂戦士が喚くが、これはもう仕方がない。怪奇現象でも起きないと説明がつかない程に珍しいことなのだから。


「どういうこともなにも、モフモフ目的以外であなたがそっちの人と居るとは普通思わないわよ」

「そうそう」


 第一、ここのところモフモフハラスメントしていたところしか印象に残っていないのだ。


「と、巫山戯ていられるのはここまでかな」

「にゅん」


 俺の言葉を肯定するようにウサギ戦士が鳴くのを聞きつつ、俺は荷物からロープを取り出す。


「ヘイル様」


 御者を任せていたマイも気づいたらしい。


「漸く追いついた、ってとこかな。このままだと轢いちゃうから、速度を」

「はい」


 指示しながら見つめる先には人影が一つ。


「これで実は無関係の旅人でしたってオチは止めてほしいところだけど」


 俺をドSにでっち上げる世界なら、あり得そうであり、ボソッと漏らしつつ俺は大きくなってゆく人影を観察する。見た目は成人男性のそれだが、足取りはやや重たげで、これはアイリスさんの固有技能の影響で弱っているからだろう。


「一応、暴走する魔物から逃げ続けてヘロヘロってことも考えられなくはないか」


 だが、魔物から逃げ続けていた旅人なら馬車が通りかかったとき助けを求めこそすれ、遠ざかろうとはしないだろう。


「通行の邪魔にならないようにとか轢かれないようにって脇に退くならわかるけどね」


 それにもし旅人だったとしても問題はない。それなら捕らえずに話を聞くだけでいいのだから。


「そこの人、ちょっといいかな?」


 どちらでも対応できるよう身構えながら、俺は声をかけた。



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