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九十六話「一応」


「ところで、エリーシア。さっきのよくわからないの光神教会がどうのって言ってた気がするけど知ってる?」


 馬車を走らせつつ、俺は車内のエリーシアに問いかけた。


「はい。勇者ヘイルの前任者、先代勇者選定の儀に候補として途中まで残られたヴァスーン家の長男と記憶しています」

「うわぁ、前任者候補かぁ」


 確かに頭の悪さでは先代と良い勝負だった印象だが、光神教会が選ぶ勇者の条件が馬鹿である事とかだったりすると、俺も馬鹿認定されてしまうので、それはないと信じたいところではあるが、エリーシアをやばいマジックアイテムとセットで勇者を引き受ける前金がわりに送りつけてくることを鑑みると、女で釣ればあっさり引っかかる輩と見なされている気がして、俺をどんな風に見られて居るんだよと文句の一つも言いたくなる。


「ユウキの情報が変に混じってるよなぁ、絶対」


 でなければ、|見たこともない程胸の大きな女性《  エ  リ  ー  シ  ア  》の送られてきた理由の説明がつかない。日常生活にも世話係が必要な人物を魔王討伐という過酷な旅に同行させるなんて足を引っ張る以外の何ものでもないのだから。


「まぁ、確かにヘイルよりあのおっぱい狂いを釣る目的だったって考えた方が納得がいくわね。あのおっぱい狂いがパーティーを抜けたのが想定外で、この娘(エリーシア)を使ってヘイルとユウキの仲を裂こうと考えていたと言われたら、そっちにも納得するけれど」

「やめて、アイリスさん?!」


 血の涙を流しつつ羨ましいでござると喚きつつ斬りかかってくるユウキの姿が、容易に想像出来てしまうじゃないですか。


「とりあえず……話を戻して、あれが擬態でもない限りアレはひとまず放置で良いかな。土産も渡しておいたし、山賊の始末で暫く手一杯だろうし」


 手に余ってあのボロボロの山賊に捕まったとしてもそれはそれ。関わり合うのもめんどくさそうだったので、失態をおかしてフェードアウトしてくれるのでも俺はいっこうに構わない。


「それと、城塞都市から逃げた人ってのに追いつくのは今のペースなら二日はかかりそうにないよね」


 一応相手がごく普通な徒歩の旅人のペースで進んだのならばの大まかな試算だが、魔族や魔物だったとしても、アイリスさんの固有技能の影響をある程度受けて弱体化しているのだ、肉体強化を施した馬に引かれる馬車の速度を超えたスピードで移動出来るとは思えない。


「まして――」


 アイリスさんの固有技能の影響を受け弱るというなら尚のこと。山賊の一件で少し足を止めたものの、俺達はかなりの速度で追いかけているのだ。このまま追い続ければ、標的はアイリスさんの固有技能の効果範囲内に入るはずであり、入ってしまえば歩みは更に遅くなると思われる。


「問題は衰弱しすぎて情報を聞くどころでなくなる場合だけど」


 これに関しても一応考えはある。レイミルさんに協力を頼み、アイリスさんの固有技能に何とか耐えられそうな召喚獣か何かを喚んでもらい、見張り兼尋問役として捕獲した推定魔族につけ、そのままの位置で待機、俺達がそのまま王都に向かうことでアイリスさんの固有技能の効果圏外に出すというものだ。アイリスさんの固有技能の影響から抜け出せば本来の力を取り戻すのはレイミルさんが召喚する存在も同じ。なおかつ影響下にある内に捕縛した標的を抵抗出来ないよう縛っておけば逃げられる可能性も低いだろう。


「ぶっちゃけ協力を頼むのはエリザや他の人でも良いんだけどね」


 遠隔操作の効き、襲撃を受けた場合でも切り捨てたり帰還させることで何とかなる召喚もしくは使役系の職業であればかわりは充分務まる。それでもレイミルさんに決めたのは、悪魔使いの悪魔や死霊術師のアンデッドと違い、ひょっとしたらアイリスさんの固有技能の効果を受けない種族も召喚出来る可能性があるのではと思ったからだ。悪魔とかアンデッドが特に効果を受けて弱りそうに思えたからでもあるものの、わざわざ言う必要もない。


「どのみち、追いついてからの話だけど」


 尋常ならざる速さで馬車はゆく。俺達を乗せたままに。



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