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八話「罠師ヘイル」

「もういいや、お前使えないし。ウチのパーティーから出てってくれる?」

 いつもの一言を鏡の前で呟いた。

「自分で自分を追放って……ヘイル、あなたこの間のことがショックでついに――」

「や、ついにって何?!」

 可哀想な目でこちらを見てくるアイリスさんを鏡越しに見た俺は、振り返って叫んだ。

「ふふ、冗談よ。だけど、誰かを追い出す時の顔の練習とかそこまでしなくても良いと思うの」

「いや、あのござる系トリッパーの話が本当なら、一人の女の子に道を誤らせてしまったのは俺の一言だから」

「冗談のつもりだったのに、結局気にしてるんじゃない」

 そう言われると、俺は苦笑することしか出来なかった。

「ユウキと違って俺はこの世界で生まれたこの世界の人間でもあるから」

 この世界で女の子と付き合って、結婚し、家庭をもつのに何もおかしな所はない。だからこそ、件の少女が直接告白してきたら俺はどうすればいいのか。

「責任をとって受け入れるのか、『アブノーマルな人はちょっと』と袖にするのか。振り返ってみると、そう言うこと何も考えていなかったなぁ、って」

「はぁ、妙なところで律儀というか生真面目よね。そう言うあなただから『同じ転生者だし、理想の男の娘に出逢えなかったら最悪あなたでも』とか私も考えていたりしたことがあったんだけど」

「え゛」

 何ソレ、ハツミミ デスヨ。

「うん、その後真剣に考えたら『やっぱり無理』かなって、ごめんなさいね?」

「しかもフラれた?!」

 いろんな意味で酷いんじゃないだろうか、本当に。

「そう言うのはあのござる系トリッパーの方にしてよ」

 アイリスさんだってあのござるだけは他者と違ってワンランク下の相手への呼称と思われるアンタ呼びしてるし、酷い扱い担当はどう考えてもあちらだというのに。

「無理。トリッパーはあっちに戻ることも充分考えられるし、それ以前にアレは『おっぱい狂い』なのよ?」

「あ、ごめん」

 ユウキの大きな胸への執着を忘れていた俺は素直に謝罪した。

「そう言えば俺達が三人で組む様になってから暫くはアイリスさんユウキを過剰に警戒していたもんね」

「予防線に前世は男だって早々に明かすハメにもなったけれど、あれは早まったのかしら……時々前世の名前で呼んでくるし」

「俺も呼ばれること有るからアイリスさんだけって事でも無いとは思うよ?」

 アイリスさんの方が前世の名前で呼ばれる率は高い気もするけど、敢えてそこには触れないでおく。

「さてと、この不愉快な話題はこれぐらいにしておくとして……それよりも、問題は件の娘が告白してきたらどうするか、よね?」

「っ、そうだね」

「結婚相手を探してこのパーティーに居る私にあなたを引き留める権利はないわ。だから全てはあなたの心次第だけれど、罠の解除や敵の警戒を任せられる子で腕のたつ子って言うとこの街では数える程しか居ないし、心当たりはみんな追放しちゃった子よね」

 アイリスさんの言わんとすることはわかる。俺がパーティーを抜けたことを前提の話をするのも、元々俺が責任がどうのとかいいだしたからであるし、文句など言えよう筈もない、ただ。

「結局の所俺が抜けると代わりが居ないというのが明らかになっただけ、と」

「上級職だもの、そうホイホイ居たら上級職を目指してそこに至れなかった人達がブチ切れるわよ」

「結構苦労したものね、上級職になるのは」

 この上級職とは下位の職業で修行と実績を積み試験に合格した上で稀少な道具を消費しての儀式を受けた者だけが至れる下位職の者からすると羨望の存在だ。

「ユウキは下位職だけど」

「トリッパーと私達じゃ、こっちでの活動時間に差がありすぎるもの。仕方ないわ」

「だね」

 固有技能を職技能を組み合わせれば上位魔法職複数相手にして無双出来る下位職だし、俺も罠魔法を弱体化させられるが故にユウキと戦うなら苦戦させられると思う。

「って、脱線した。ええと、それじゃ次は盗賊とかそっち系の人を拾って見る? まぁ居るかどうかは探さないとわからないけど」

「そうね。今はこうして一緒にパーティーを組んでるけど、私は結婚、ユウキには元の世界への帰還って言うパーティーを抜ける可能性はある訳だから、あなただけでなく」



この流れだと次はパーティーの紅一点っぽいですよね。(ただし転生前は男)


【職業補足データ】


・罠師

 経験を積んだ盗賊またはレンジャー系の職業が昇格してなると言われる上位職。罠の扱いに特化しており、予め仕込んでおいた罠を収納、召喚することで一瞬にして配置したり、設置した罠の効果を飛躍的に強化する罠魔法を行使、敵を翻弄する。


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