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八十九話「そして翌日」


「ご苦労さん、こいつが報酬だ」


 冒険者の斡旋所にやってきた俺は斡旋所のオッサンに依頼の報告を終えた所だった。


「そうそう、それから今回の依頼人何だがな、王都リェングロッドに向かいたい知り合いが居るからお前さん達さえよければ護衛依頼を頼みたいそうなんだが……確かお前さん達王都リェングロッド方面の護衛依頼を探してたろ? あれより出発はこっちの方が早いぞ。しかも道中の路銀は依頼人が持つって話だ」

「っ」


 降って湧いたような話というか、渡りに船というか、美味しすぎるぐらい美味しい話だが。


「紹介者の事さえ考えなきゃ、いい話なんだよなぁ」

「ヘイル、どうするの?」

「依頼人についてもう少し詳しく聞いても?」


 横から尋ねてきたアイリスさんの問いに唸った俺は斡旋所のオッサンに尋ね。


「依頼人、か。前の依頼の依頼人の仕事上の関係者だな。出版社の人間で作家の原稿を本社まで持っていく人間だ」

「あー、その本社が王都にあるのか」


 なら護衛を雇ってまで王都に向かう理由はあの作家の原稿を持って行く為と言うことなのだろう。


「って、昨日の今日で?!」


 思い出したくもない依頼を受けて件の作家の家を訪ねたのが、昨日。俺は本を書いた事なんて無いが、そこから一日足らずで原稿を王都に持って行く話が出ているとなると、あの作家筆はかなり速いのではないだろうか。


「と言うか、運ぶ原稿の方も気になるんだけど」


 この護衛依頼を受けるとして、俺が見たら破り捨てたくなるような内容だったらどうしよう。


「普通に考えるなら、受けるべき依頼ね」

「あー、うん」


 それはわかる。と言うか、俺がまごついてると件の作家のファンのレイミルさんが暴走して勝手に受けそうな気すらする。


「出発が早まるのはありがたいし」


 本当に良いのかと心の何処かで尋ねる声が下が、それを振り払い、俺はオッサンに依頼を引き受ける旨を伝え。


「そうか。依頼人は前回の依頼人の家に居るそうだ。そう言うわけだから詳しい案内は不要だな」

「え゛」


 無情に放たれた言葉に凍り付いた。また、あのSMハウスにお邪魔しろ、と。


「手間が省けたわね、ヘイル」

「そう思うなら、依頼人との繋ぎはお願いしてもいいですか?」


 謎の手品師という隠れ蓑も用意出来てはいるが、あの家にお邪魔すると言うことは家主である作家と顔を合わせること人張るのは、明白。俺は出来れば避けたくあり。


「残念だけど、紹介して貰った手前、顔を出して頭を下げる位するのが礼儀でしょ?」

「うぐ」


 至極真っ当な指摘である。


「つまり――」


 透明になるにしても謎の手品師に扮するにしてももう一度あの家に行かなくてはならないのだ。まぁ、エリーシアを置いて行けるので、前回のようなことにはならない分マシではあるのだろうけど。


「仕方ない、仕方ないのかな……」


 それでも依頼を受けることでこの城塞都市の滞在期間が短くなるなら、きっと良しとすべきであり。


「割り切るとしたなら、あとは情報収集か」


 予定より早い出発になるなら、王都方面の情報も早めに集め終わっておく必要がある。


「治安と地形の双方から行程がどうなるかをある程度予想しないと」


 魔物に関してはアイリスさんの固有技能がある。過信は拙いが、弱体化した魔物がたいした脅威になりえないのは経験済みだ。


「そうね、それについてはこちらで引き受けたわ。だから、ヘイルは依頼人と会ってきて貰えるかしら」

「え」


 ただ、その提案は想定外だった。


「けど、アイリスさんが居ないと――」


 魔法で透明化して貰えないと言うことであり。


「その為のアレでしょ」


 驚愕する俺の前で、アイリスさんは首を傾げた。


「その アレ と いうのは ひょっとして なぞ の てじなし の こと ですか?」


 などと声に出して聞くわけにも行かない。


「あれ?」


 そこまで考えてから、ふと訝しく思う。謎の手品師と件の作家に面識はないし、一応俺と手品師は別人と言うことになっている。訪問するのに手品師の格好は問題だと思うのだが。


「ほら、ヘイルなら忍び込むことなんて簡単でしょ?」

「あ」


 俺の漏らした声をオウム返しに問われたと取ったのか、アイリスさんに小声で指摘されて、俺は勘違いに気が付いた。そう言えば俺は盗賊系の上級職だったのだ、家屋侵入なんてお手のモノである。


「うわぁ」


 指摘されるまで失念してるとか、もの凄く恥ずかしかった。


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