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八十七話「説得のはずでした」


「マチョ・マジカ様!」

「ッ、ぬわッ?!」


 発見、則、飛び込み(ダイブ)。一瞬除けるべきか躊躇う、という致命的なミスを犯した私は、フライングボディアタックをかわせず、押し倒されたッ。


「そうなってからから気づいたんだけどさ、捕まってたら透明になっても半分以上無意味だよね。肉体強化魔法で腕力が強化されてる訳だし」


 謎の手品師になる前だったら、その状況に陥った時、私はそうボヤいていただろうッ。


「こんな短時間で肉体強化がそれなりに使えるようになってるとか、嬉しい誤算でいいのかしらね?」


 圧倒的な大きさをした、エリーシアの胸の下敷きになりつつ、脱出の適わない私の耳が、アイリスさんの呟きを、拾うッ。


「まぁ、先制で物理的制圧をされてしまうとか想定外も良いところだわ」


 しかも、胸の圧迫で口元が、時々塞がって、まともな説得が、出来る状況でもないッ。何処かのござる系トリッパーなら、大喜びだったかも知れないがッ。


「仕方ないわね。マイ、手伝ってくれる? 謎の手品師からこれ(エリーシア)を引き剥がすわ」

「は、はい」


 手間をかけて済まないと言うべきか、嫌な予感があたったじゃないか、とアイリスさんを非難すべきかッ。と言うか、気が付くとエリーシアのモノだけでなく、他者の胸の感触も感じるようになった気がするのだがッ。


「へイ……謎の手品師さん、モテモテじゃない」


 否定はしないが、それより早く助けて欲しいという私は、間違っているのだろうかッ。こちらから、強引に振り解こうと試みること自体は、不可能ではないッ。不可能ではないのだが、私の上に乗っかっている二つの柔らかな何かへ触れずにそれをしろというと、至難の業であり、また、意図せず触れてしまう可能性も否定出来ないのだッ。


「冗談はこのぐらいにするとして」

「ぷはっ」

「ふぅ。肉体強化にはやっぱり肉体強化ね。流石に覚えたて相手にパワー負けする筈もないし。とは言え、この娘(エリーシア)が肉体強化魔法を使い慣れてきたらそうも言ってられないわ。その前に御し方を確立しておきなさいよ」


 何とか、凶悪な質量兵器(エリーシアのむね)を引き離してくれたアイリスさんに感謝しつつ、私は頷きを返すッ。言っていることは、もっともなのだッ。肉体強化魔法の熟練度が増せば、強化のレベル自体も高いモノが、行使可能になって行くだろうッ。エリーシアに身体能力で敵わなくなった後、押さえ込まれた後どうなるかは考えるまでもないッ。


「ならばッ」


 いっそのこと、エリーシアの目の前で、この袋を脱いで口調も元に戻すかッ。マチョ・マジカと言うキャラクターに好意を寄せているなら、その存在が目の前から消えれば、少しは冷静になるかも知れないッ。もちろん、これは、諸刃の剣でもあるッ。私にする反応を、ヘイルの時も見せるようになるかも知れないのだからッ。


「ただ――」


 マチョ・マジカ=モードがこう、怠くなったというか、演じるのが疲れてきたと言うのもあり、俺の中でそろそろヘイルに戻るべき何じゃないかという声は徐々に強くなり始めていた。


「そもそも、一度正体は俺って明かしちゃってるし、今更だよね」


 それは、エリーシアから見れば唐突に、前触れもなく。俺は俺に戻った。


「あ」

「何だか話が進みそうになかったし、それでエリーシアにお願いがあるんだけど良いかな?」


 何やら衝撃を受けてるところにつけ込むような気がしてちょっと良心が咎めるが、人前で男性が目のやり場に困るようなことをされると俺も困るので、仕方ない。


「どうやら、うまく行きそうね」


 ただ、アイリスさん。それ失敗フラグっぽいので、言わないで貰えませんかね。


「わかりました」


 俺の心の声が正しかったのか、エリーシアは自分の衣服に手をかけて脱ぎ始め。


「ちょ、すと、ストーップ!」


 慌てて制止するハメになったのだった。こんな時だけ予感とかそう言うの当たらなくても良いのに。


主人公、羨ま死しかけるの巻。

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