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七話裏「ある少女の朝」

「あ」


 何気なく目尻に指をやって私は声を上げました。


「また、夢を見てたんですね」


 ベッドから身体を起こせば、窓から差し込むのは日の光。ここのところ宿に泊まる日は何故か目覚めが遅くなりがちで、そんな時は目元が濡れているのです。夢を見ていると断言出来るのは、少しだけですがぼんやりとその内容を覚えている時があるからなのですが。


「見たこともない道具、見たこともない文字」


 だと言うのに何となくですが、道具の使い方が解り、文字も理解出来て。


「うん。楽しみにしてるね、結婚式」


 ポツリと漏れた誰かの声。四角い道具の枠内に浮かび上がるいくつもの区切られた四角、その一つに書かれた文字を中心にしていた視界が急に暗転し。


「たぶん、夢の中の人は病を抱えていたのでしょうね」


 再び開けた視界は白い部屋の天井を映していました。視界は動いて、目に入ってきたのはベッドの手すりや枕、透き通ってなめらかな継ぎ目のないガラスの窓と、窓の向こうにある見たこともない町並み。そこが病院と言う病を治すための施設だと理解出来たのは、見知らぬ道具の使い方がわかったのと同じ理屈なのでしょう。


「そしておそらく、夢の中のその人は病でそのまま――」


 起きれば涙のあとがあるのも夢の人物の強い感情が伝わってきて、影響されたからだと思います。渇望、不安、悲しみ、そして誰かを慕う気持ちと案じる気持ち。


「私にも好きな、お慕いする方が出来たから」


 尚のこと夢の人物に共感を抱いてしまい、知らずに泣いているのではないかと。


「気にはなりますけど、こんな突拍子もない話、相談出来る方もいらっしゃいませんし……」


 寝坊してしまうと言うのが仕事に差し障るのではと少し気にかかりますが、目覚めが遅くなりがちと言っても目が覚めたら太陽が一番高いところまで昇っていたなんて訳ではありませんし、今のところ寝坊して遅刻したと言うこともありません。


「もう少し様子を見ましょう」


 そもそも夢を見るのは眠りの深いちゃんとした寝床で休む時のみなのです。野営では夢を見ることもないし、最悪納屋や馬小屋で一夜を明かせば夢は見ないというのに予定を変更する訳にはいきません。


「ヘイル様達が受ける依頼をチェックして、出来たら一緒の依頼に……」


 前の依頼をヘイル様達が受けられたのは三日前。依頼の拘束期間と移動時間を考えると、次の依頼を受けられるのは早くて明後日の筈。


「二日以内で終えられるお仕事を受ければ調整はききそうですね」


 出来れば一日で終わりそうなお仕事にして一日は念のため予備日にしておくべきかも知れません。


「急な移動に備えて一定以上の路銀は必要ですし、割の良さそうな配達の仕事が有るといいですけれど」


 寝坊してしまったのでギルドに向かっても割の良い仕事はもう無いかも知れません。それが特定の職業の人でなければ難しい様な依頼でなければ。


「ミヤラックの村までの配達依頼? これは急ぎの依頼だからね。馬持ちだとか高速で移動する手段の……ああ、あんた馬持ちか。なら問題ないな。じゃ、お願い出来るかい?」

「はい」


 幸いギルドには丁度良い依頼が残っていて私は依頼を受け。その足で厩舎に向かいました。


「半日とはいえ、ここを離れないといけないなんて」


 仕事だから、甘いことを言っては居られませんが辛いモノは辛いです。


「ああ、またヘイル様のパーティーに入りたい……」


 そう言えばあのパーティーに居るユウキ様は私の気持ちをヘイル様に伝えてくださったでしょうか。


「そう言うのは直接本人に言わないと駄目だと思うでござるよ」


 と、難色を示されましたが。


「考えてみれば、仰ることももっともなんですよね」


 ただ、ヘイル様と再びお会いして平静でいられるかどうか、それに。


「一度、パーティーを追い出されてますから。そんな私が『お慕いしております』と申し上げたとして、あの方は――」


 怖くもあり、それで居てちょっとこう、ワクワクしてしまう自分も居て。


「いけません、今は依頼を終わらせましょう」


 色々想像するのはその後にしなければ。頭を振った私はいつの間にか止まってしまった足を動かし愛馬の元へと向かうのでした。


と言う訳で、主人公を好きになってしまったっぽい少女側のお話。


ストーカーチックなのはたぶん仕様。ただ、主人公が盗賊系なのでこっそり盗み見るとか尾行するとか難易度べーリーハードなんですよね。


Mじゃないと途中で挫けそう。(粉みかん)


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