99.イズミと憑依者
イズミは、腕組みをして大きく頷く。
「へー。あの炎竜に憑依されたのに、自力で排除するとは、お見事としか言いようがないわね。
恐ろしい精神力だこと」
「あなたに褒められても、ちっとも嬉しくないわ!
早く、イズミの体から離れて!」
「駄目よ。
私にとって、大事な人質なのだから」
「卑怯よ! イズミの弱みを握って、行動を束縛するなんて!
正々堂々と勝負しなさいよ!」
「あらあら、イズミの弱みを握るって……。
もしかして、あなた、あのことを知っているの?」
「あのこと? 知っている?
何を?」
「……なーんだ。適当に言ったのね。
あのことを知っているかと思って、驚いたわよ」
「だから、何のこと?
今、イズミに憑依していること自体、弱みを握っているんじゃない!?」
「憑依することが、弱みを握る?
ハハハッ! 馬鹿じゃない?
言葉の意味、わかっているの?」
「むうううううっ!」
とその時、イズミの体が小刻みに震えてきた。
そして、聞き覚えのあるイズミの、苦しそうな声が口から漏れてくる。
「そ……そう……だった……のね。
あ……ありがとう……カナ」
「その声は、イズミ!?」
「弱み……握る……と人質で……わかった。
私……この人に……騙されて……いた」
それを遮るように、イズミが偽者の声を出す。
「何を惑わされているの?
この子は、適当に『弱みを握っている』って言ったのよ」
苦しそうなイズミと偽者のイズミが会話を始めた。
「それは……どうでもいい。
さっき……私を……人質と言った」
「……っ!」
「つまり……私は……利用されていた。
そう考えれば……納得できる」
「ふーん。
なら、説明してみなさい」
「あのお父さんや……お母さんに……突然かけられた闇魔法。
はぐれ魔女が……上級魔法使いに……高度な魔法を使うのは……かなりのハイレベル。
あなたの……仕業ね」
「何を馬鹿なことを――」
「あなたが……私を利用しようとして……はぐれ魔女に化けて……闇魔法を使用したなら……説明がつく。
闇魔法の……解除を条件に……炎竜を覚醒させる」
「ふん!
そこまで気づかれちゃあ、隠し通せないわね」
「やっぱり……」
「そうよ。
あなたの想像通りよ」
「……」
「はぐれ魔女の仕業というのは、真っ赤な嘘。
ここまでやってくれて、ご苦労様。
感謝しているわ」
「でも……失敗した」
「そうなの。
宝玉は黒猫に奪われる。
炎竜は、顕現するかと思えば、中途半端に覚醒してあの子に憑依し、また体に封じ込められる。
元に戻ったどころか、宝玉を奪われたから、悪い方に傾いたわね」
「なら、今からもっと悪い方に……」
「あっ!」
突然、イズミの全身が震え出した。
「カナ! ……お願い!
私は……この人を……捕まえた!
魔法で……私を!」
「何をするの!」
「早く!」
「やめて!」
カナは、「わかった!」と言って左手を突き出した。
「――稲妻!!」
横向きの稲妻が、イズミを直撃する。
彼女は、全身が痙攣して、崩れ落ちるように倒れた。